8月にアフリカを訪問した安倍総理は、3年間で総額3兆円をアフリカに投資すると表明したが、日本国内においては社会保障を改悪し、医療と介護の分野では国民に負担増と給付減を押し付ける案をまとめつつある。
75歳以上の医療負担を1割から2割へ引き上げ、70歳以上の医療保険や介護保険の自己負担上限も引き上げる。後期高齢者医療保険料の「特例軽減」を廃止、低所得者の保険料は2倍から10倍に急増する。世代間の公平が理由だというが、高齢者ほど収入は減り、医療費は増えるのが一般的だ。
日本社会で貧富の格差が広がる中、刑務所における高齢者の収容者数が増えていると英フィナンシャル・タイムズ紙が報じた。日本では、万引の約35%が60歳以上で、老人の再犯者は有罪判決を受けて刑務所に入れられることを狙っていると推測されるというのである。貯蓄のない独り身の定年退職者は、国民基礎年金の年額78万円では生活ができないが、刑務所に入れば食事、宿泊施設、医療を提供してくれるからだ。
世界で一番刑務所の収監者数が多いアメリカでは別の問題が起きている。アメリカには5千以上の刑務所があり、人口約3億人のうち230万人以上が収監されている。1980年代から刑務所の民営化が始まり、クリントン政権になるとさらに公務員を削減したことで民営の刑務所が急増したのである。民間企業が刑務所を運営しても費用は税金から支払われるので、民間刑務所は一大ビジネスとなったのだ。
この刑務所ビジネスで人権団体などが今問題視しているのは、受刑者を時給約25円という低賃金で働かせていることだ。現在100社以上の企業が刑務所と契約を結び、受刑者を労働者として製品を作らせているという。安いうえにストライキも遅刻も無断欠勤もしない受刑者ほど、企業にとって魅力的な労働力はない。
統計によれば1972年のアメリカの受刑者数は30万人に満たなかったが、1990年に約100万人、2000年には200万人を超えた。急増の理由はこの刑務所ビジネスにあることは疑いの余地はない。だからこそ犯罪率が減少しても、受刑者人口が増えているのである。
アメリカで受刑者を働かせる歴史は奴隷制度にさかのぼるという。南北戦争後、奴隷制は廃止され、代わって導入されたのが囚人を雇う制度だった。労働力となった囚人の大部分は黒人で、奴隷制度により解放された黒人は、ちょっとした盗みで収監され、プランテーション農場や工場で働かされた。
この刑務所ビジネスという新たな奴隷制度は、アメリカ企業に再び安い国内労働力を提供した。日本では刑務作業で家具などが作られているが、アメリカではコンピュータ部品や医療機器などの製造を多国籍企業が契約して低賃金労働を利用している。
新たな奴隷制度を見つけたアメリカと、軍事費を増やす一方で福祉支出を削減し、生活苦から刑務所へ行くことを選ぶ老人を生み出した日本。そこに共通するのは、企業群が政治献金によって政府を動かすこと、それによって国民の主権が合法的に奪われているということなのである。