No. 1166 どうなる 米大統領選

アメリカ大統領選挙において、ドナルド・トランプ候補が、大統領になれば日本や韓国などの同盟国はアメリカ軍の駐留費用の全額を負担すべきで、さもなければ米軍を撤退させると語ったことは日本でも話題になった。

不動産王であるトランプ候補は「個人的には韓国や日本には不動産を所有し、両国とは良い関係がある」と言いつつも、「アメリカは世界の警察の役割を担っているため膨大な軍事予算により借金国に陥った。各国は費用を全額自分たちで負担して自分で自分を守るべきだ」と語ったのである。

これに対して日本のメディアの中には、もし米軍が撤退すればすぐに中国海軍が尖閣諸島に上陸する、または拡張主義をとる中国やロシアが調子に乗って侵攻してくるだろう、というような報道をするところもあった。それは、「だから米軍は日本にとって、中国からの脅威を守るために絶対に必要だ」ということを訴えることでもあり、それによってアメリカの現政権、そしてそれ以前から続くアメリカの対日本政策を維持するためだともいえる。

世界の多くの米軍基地は、冷戦時にソ連を包囲するための前哨基地だったが、アメリカは冷戦後も軍隊を駐留させ続け、多くの税金と借金が使われている。しかしそれこそがアメリカの政治的、経済的戦略であった。ソ連崩壊後も軍備を縮小せず全世界に新たな敵をつくり、各地で紛争が起きれば軍産複合体を富ませることができたからだ。その軍産複合体がトランプ大統領の誕生を何としてでも阻止したいのは当然のことだろう。だからこそアメリカ企業はメディアを通して、軍需産業に利益をもたらすヒラリー・クリントン候補を支持している。

もうすぐ大統領選挙の結果は判明するが、日米の選挙報道をみると2候補者のうち一方的に1人がこれほどたたかれる選挙戦はこれまでなかっただろう。無知、ペテン師、性差別者、邪悪な道化師と、トランプ候補のネガティブなニュースが日々報じられた。そこまでトランプ候補がひどい人物であるなら、なぜ支持率が高いのかといえば、トランプ氏は没落したアメリカの中産階級、とくにブルーカラー労働者の代弁者であるからだ。

グローバル化によりアメリ企業が製造拠点を中国などへ移転し、多くの労働者は安定した雇用を失った。トランプ候補の強力な支持者は共和党員というよりも経済力もアメリカンドリームも失ったアメリカ人労働者であり、彼らの不満を拾い上げているのがトランプ氏なのである。しかしこの選挙戦でのメディアやアメリカ経済を支配している企業の動向を見ていると、トランプ大統領誕生にでもなればクーデター、または暗殺のような事態が起きかねないだろう。

しかし一方で、メディアの支援と予想通りクリントン大統領が誕生しても、その「信頼のなさ」「うそつき」には定評がある。そうなれば大統領執務室において女性と「不適切な行為」を行った夫のビル・クリントン大統領が弾劾裁判にかけられたように、また権力を乱用し政権内の高官を解雇して弾劾裁判を受けたのち罷免された故ニクソン大統領のように、ヒラリー・クリントン氏の地位も決して安泰とはいえないかもしれない。