No. 1170 方向転換したフィリピン

60年以上にわたりアメリカの同盟国だったフィリピンが今、大きく方向転換しつつある。今年6月末に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領が、アメリカと決別して中国の勢力圏に入ることを公言し、外交政策の再構築を明らかにしたのである。

ドゥテルテ大統領は10月初めに行われた米軍とフィリピン軍の合同軍事演習について、これが最後だと述べ、またマニラでの演説ではフィリピンの麻薬取引撲滅のための厳しい法律を批判したオバマ大統領を侮辱するような発言をするなど、一貫してアメリカに対して批判的な態度をとってきた。このフィリピンの政策転換をどうやって元に戻そうかとアメリカが考えている間に、ドゥテルテ大統領は中国との同盟を発表したのである。

中国とフィリピンといえば、南シナ海の南沙諸島問題で中国がほぼ全域にわたる領海を主張することに対して抗議をするなど、近年緊張が高まっていた。しかしこの問題も棚上げすることで両国は合意したのである。フィリピンとの関係改善は、中国にとってアジア太平洋地区における影響力の強化につながるが、これこそが、アジアを覇権しているという考えに基づいて南シナ海を航行するアメリカ海軍にとってあってはならないことなのだ。

アメリカの軍事同盟国である日本では、フィリピンの行動があたかも愚かで軽率であり、中国の行動は大きな脅威であるかのような報道がみられる。しかしアメリカは「航行の自由」作戦だとして中国の領海に駆逐艦を派遣しており、もしメキシコ湾に中国海軍が同じように艦隊を派遣してきたら、アメリカはいったいどう反応するのだろうか。

中国の領海を航行するアメリカに対して中国政府が放ったメッセージは明瞭だった。中国政府の機関紙ともいえる「人民日報」は論評として、中国領海に無断でアメリカの軍艦が進入した行為は「覇権思想に駆られた妄動である」とし、ドゥテルテ大統領が訪中している時に軍艦による巡航行動をとることは、「地域における緊張を故意に作り出し、誇張してきた米国の破壊的作用をまさに検証するものだ」と言及したのである。

フィリピンと中国の接近とアメリカに対する中国の強気な態度は、アジアにおける地政学が大きく変わりつつあることを示している。もはや覇権国が地域を分裂させ、混乱に乗じて 利益を得ることができる時代ではなくなったのだ。例えば2001年、上海協力機構がロシアと中国など周辺6カ国がその地域での兵力削減など信頼構築を目標として創設された。2017年には、そこへインドとパキスタンも加盟するという。またイランの加盟も議論されており、まさにアメリカに対する基軸としての性格を強めつつあるのだ。中国とロシア、そしてインドが協力体制をとるとなれば、どれほどの影響力が世界へ及ぼされるのであろうか。

アメリカから離れる動きは実はフィリピンだけではなく、アメリカとの関係が強かった国王が死去したタイ、そして中東ではトルコとイスラエルがロシアとの関係を強めつつある。そんな中で、安倍政権だけはアメリカへの忠誠が揺らぐことなく従属を続けているようである。