No. 1175 所得格差の拡大

昨年11月、経済協力開発機構(OECD)は所得格差に関する最新情報を公表した。金融危機の起きた2007年から10年、所得格差はさらに広がったのだ。

OECDの報告書によれば、35カ国の賃金の中央値は2007年よりも低く、賃金所得者の下位10%は2007年よりも賃金が3.6%も下がっていたが、富裕層である上位10%の所得は増加した。この報告書はOECD先進国に関するものだが、グローバル化が進む中で影響を受けない国は世界のどこにもなく、開発途上国での所得格差はさらに広がっていると言える。また賃金が伸び悩んだのは日本だけではなく、ギリシャ、ポルトガル、スペインなど景気後退が著しかった国では労働者の賃金は軒並み減少した。

OECD諸国の中で所得格差が大きいのはチリ、そしてメキシコだが、その次にくるのはアメリカだ。所得分配の不平等さを測る指標のジニ係数では、平等であるほど数字は0に近くなり、1人の人間がすべての所得を独占すれば1になるのだが、この指標で、チリは0.46、メキシコは0.459、アメリカは0.394であり、日本は0.33であった。格差が少ないのは北欧諸国で、そのうち最も少ないアイスランドは0.24であった。

昨年12月には経済的不平等について研究する経済学者トマ・ピケティ氏が、ザックマン、サエズの両氏との共同研究を発表したが、そこでもアメリカ成人の下位50%の税引き前所得は、インフレ調整後のドルで1980年以降横ばいだという。税金を差し引くと、国家所得に占めるアメリカ成人の半数の所得は、1980年の20%から20144年には12%へ減少しており、一方、同期間にアメリカの富裕層上位1%は国家所得の20%を手にしている。

安倍首相が「日米同盟は普遍的価値で結ばれた揺るぎない同盟だ」とアメリカへの忠誠を誓っているからにはこの格差拡大は見過ごせない。アメリカでは富裕層や大企業が政府を買収して規制が緩和され、工場は低賃金国へ移され、簡単に労働者の解雇が可能となり、富裕層へ所得が転移した。これらは新自由主義の論理的帰結なのである。

ピケティ氏が著書『21世紀の資本論』で著したように、資産としての株や債券などお金がお金を生む速度は、給料(所得)が伸びる速度よりも速いのだ。さらに人工知能(AI)技術の出現だ。AIの普及で日本の雇用者数は20300年に240万人減少するという試算が三菱総合研究所から出されるなど、人間に代わって機械が作業を行うという産業構造の 大転換期にある。これが多くの失業者を生み、また機械の所有者である資本家は富を蓄積し、さらなる格差拡大につながるのだろう。

国民がひどく困窮すればデモや暴動が起き、ハイパーインフレで国民が生活に困り果てた時に希望の星としてドイツにヒトラーが登場したように、究極は戦争さえ起こり得る。すでにドイツやイタリア、フランス、オランダなどで極右政党への支持が拡大しており、日本は既存政党自身が極右化しつつある。国家の権益だけでなく国民の格差が戦争を支持する動機になるということを、われわれは覚えておくべきだ。