No. 1177 米国第一主義

トランプ大統領の時代が始まり、米国のみならず世界の地政学が大きく変わろうとしている。

第45代米国大統領に就任したトランプ氏は就任演説で「米国第一主義」を宣言し、米国の再生に向けて国民に団結を呼び掛けた。しかし新大統領に抗議する女性たちの大規模なデモが行われるなど支持者と反対派の溝は一層深まっている。

トランプ大統領の掲げる米国第一主義は、米国民のための貿易、税制、移民政策を実施することである。米国製品を買い、米国人を雇用する政策を推進するとして、就任後すぐに公約であった環太平洋連携協定(TPP)からの撤退も表明した。オバマ氏、ブッシュ氏、クリントン氏ら歴代の政権の政策を一転したのは、TPPのような自由貿易協定が「米国人労働者の利益にかなわない」からという理由であり、離脱表明文はそれを明確に表している。

「貿易は米国人労働者とビジネスとを第一に考えるのが重要であり、厳格で公正な協定を結ぶことで経済が成長し、雇用を米国に戻し、苦しんでいる米国のコミュニティーを再び活性化させることができる」。つまりTPPは米国人労働者にとって公正な協定ではないため、雇用を取り戻し、賃金を上昇させ、製造業を支援するような新たな貿易協定を設定する、と言うのだ。

TPPを進めたい安倍首相のもくろみはつぶされたが、TPPがそのような不公正な協定なら日本に利益をもたらすことなどあり得ず、離脱は日本国民にとっても幸いだった。安倍首相はトランプ大統領に離脱を改めるよう説得すると言うが、そんなことをすれば米国人労働者から内政干渉だとの声が聞かれそうである。

アメリカ・ファースト(米国第一主義)で、トランプ大統領は政権をワシントンから国民の手に取り戻すという。それは20世紀半ば、自動車王ヘンリー・フォードが高価な乗り物だった車を普及させるために値段を下げ、生産性を高め、工場で雇用する 多数の労働者の賃金を上げて労働者が車を買える ようにしたのと同じ思想と言える。アップルやアマゾン、グーグルといっ た21世紀を代表する米国 企業はそれをしてこなかった。

さらにトランプ大統領は歴代の米国政権が行ってきた、外国の政権転覆やある地域を不安定にさせる戦争を行うといった政策をやめ、ロシアなどと協力してテロを撲滅し、戦争よりも平和を促進すると述べている。この大きな政策転換は、それによって利益を得てきた軍産複合体やウォール街、ワシントンのエリートたちがメディアやさまざまな反対デモを使ってトランプ大統領を攻撃するのも無理はない。今、米国で繰り広げられる抗議運動やメディアの報道をみれば、オバマ政権を支持したトップ1%の抵抗がどれほど大きいのかが分かる。

中国に流出した雇用が米国に戻ってくるかどうかはわからないし、戻ってもロボットにとって代わられるかもしれない。この大きな変化の中で、米国に70万人の雇用を創出し、米国に約50兆円の市場を生み出す支援を打ち出すという安倍政権の対米隷属外交だけは変わらないようである。