No. 1178 機械と人間協働の未来を

昨年、経済産業省は、人工知能(AI)やロボットなどの技術革新をうまく取り込まなければ、日本の雇用が2030年には2015年度よりも735万人減るとの試算を発表した。

技術進歩で雇用が減少するという試算は、これまでもオックスフォード大学など多くの研究機関から出されているが、日本政府の試算では、「技術をうまく利用すれば減少は161万人に抑えられる」という。高度な技術を使いこなせる人は職を失うことはないと政府は見ているらしい。

米アマゾン・ドット・コムはAIを活用したレジで決済が不要な食料品店「アマゾン・ゴー」の開設を発表した。顧客が専用のアプリを使って買い物をし、カメラやセンサーの情報を通じてAIで認識して決済される。これを全米に展開するといい、日本への進出も時間の問題だろう。株の売買もすでにコンピューターによる超高速売買のロボット・トレーディングが行われている。これは1秒間に千回以上の取引を繰り返すというもので、ハイテク武装したヘッジファンドが日本の株式市場の相場を動かしている。またコンピューターによる自動運転自動車が当たり前になる日も遠くないだろう。運転が嫌いな人には福音かもしれないが、自動運転自動車によって保険やタクシー業界、政府の規制(運転免許)など、社会にもたらす影響は計り知れない。

ほとんどの人は労働によって所得を得ており、生きていくために、人は働かなければならない。その仕事をロボットやAIと奪い合わねばならなくなるのだ。すでに日本において正社員の総数は30年以上増えていない。それどころか30年前には全雇用者の80%近くが正社員だったのが、今では50%にも満たない。増えたのは契約社員やパート、アルバイトといった不安定で賃金の安い非正規の仕事ばかりである。

非正規雇用者が増えているので失業率は低いが、国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、1年を通じて働いているのに年収が200万円に満たない人が400万人以上にのぼる。

企業経営者にとってみれば、新たな仕事が発生したら、まず自動化できないかと考え、もしできなければ、その作業をアウトソースまたは外注することを考える。新たに社員を雇ってその作業を行うのは最後の手段であり、そうした行動が何十年も続いた結果、機械が多くの労働者に取って代わった。アマゾンの登場で米国では書店のチェーンが倒産に追いやられたが、次はコンビニのレジ係がAIに取って代わるのである。

1950年代の米国黄金期、そして高度経済成長の日本の共通点は中間層が厚く、貧富の格差が少ないことだった。その中間層減少の最大の理由は、工場の海外移転など産業の空洞化と機械化であり、技術革新によりこれからも機械化が進むことは間違いない。AIをうまく使えば日本の雇用の減少を引き留められるという経済産業省の予測を単なる楽観にさせないためにも、機械と人間を競わせるのではなく協働させるような未来を築かなければいけない。機械の所有者が人間である限り、それは可能なはずである。