トランプ氏が第45代米国大統領に就任してから、米国には変化の嵐が吹き荒れている。
就任後すぐに環太平洋連携協定(TPP)から離脱し、カナダ、メキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉も表明した。大統領の掲げる「米国第一主義」とは、米国の権力者ではなく、国民の利益を第一に考えるということであり、TPPなどの自由貿易協定は、国境を超えて活動する多国籍企業の利益を極大化する一方で米国民の雇用を破壊するからだ。
米国の主流メディアによる反トランプ攻撃が続くのは、この政策が大企業の利益を抑制するからである。マスメディアは大企業の広告宣伝費に依存した経営を行っており、また大企業は、オバマ政権まで は多額の政治献金をすることで政府を動かしてきた。日本でも中核となってTPPを推進していたのは経団連で、政府与党に多額の献金をしてい たのも大企業であるのと同じ構図だ。
その一方で、農業者をはじめ多くの一般国民はTPP参加に反対してきた。言い換えるとTPPで利益を得るのは、低賃金国に製造拠点を移して生産し、それを賃金の高い国で売ることによってもうかる人々、そして消費者や労働者を保護する規制や環境保護の規制を撤去または緩めることでもうかる人々なのである。
トランプ大統領が新たに定めたメキシコと米国間に壁を建設し不法移民の取り締まりを強化するという法令も同様で、不法移民を企業が労働力として安く使うことによって米国民の雇用を奪う、または賃金水準を下げているというオバマ政権までのやり方を変えるためである。
しかしトランプ政権の新たな政策すべてが一般国民にとって良いわけではない。去る2月、米国司法長官は連邦刑務局に対して、オバマ前大統領の命令を破棄し、民間刑務所の利用を継続するよう指示した。米国には民間企業が運営する刑務所があるが、昨年オバマ政権は民営刑務所を段階的に打ち切ることを発表していた。しかしトランプ政権はこれを覆したのである。
米国の受刑者数は世界一を誇る。米国の人口は世界の5%だが、世界の受刑者の25%が米国の刑務所にいるのである。そして米国の受刑者は平均時給25セント、ラバマ州などでは無償で刑務作業をさせられている。民間刑務所となれ ば特にその目的は利益拡大にある。そのため軽犯罪も厳罰化されて懲役期 間が長くなっている。これこそが現代の奴隷制度にも等しい米国の現状なのである。
囚人ほど安価な労働者はない。途上国の賃金よりも安く、ストライキもしないし手当もいらないからだ。そしてこうした労働力を利用しているのが大企業なのである。安定した労働者、つまり受刑者を確保するためにトランプ政権はさらに厳格な法律を作って囚人を増やし、刑期を延ばしていく可能性がある。
日本に民間刑務所はないが、犯罪の計画段階で処罰するという共謀罪のような法律ができれば、あらゆる理由をつけて犯罪者として逮捕することが可能になる。そうなればトランプ大統領を盟友とする安部首相は、治安の悪化、犯罪者の増加を理由に刑務所の民営化を言い始めるかもしれない。