トランプ政権になってから、アメリカでは「ディープ・ステイト」という言葉が聞かれるようになった。日本語にすると「国家の内部における国家」と訳され、歴史の文脈において、国家の重要な政策に影響力や支配力を行使している「陰の政府」のことである。
オバマ政権までは、その「陰の政府」が強い影響力を持って政治を支配していた。しかしトランプ大統領がディープ・ステイトとの戦いを宣言したため、今、陰の政府はトランプ政権の抵抗勢力となっているというコラムがNYタイムズやLAタイムズに掲載されたのである。これまでは共和党、民主党のどちらから大統領が選出されても陰の政府が重要な政策決定を行ってきたため、メディアは陰の政府の存在を否定するか、陰謀説のように嘲笑の対象にしてきた。その単語が紙面に上るようになったのは、ウィキリークスやエドワード・スノーデン氏がアメリカ政府が行ってきたことを暴露したことに加え、トランプ大統領の誕生が決定的であったといえる。
アメリカは民主主義を掲げて他国にも押し付け、気に入らない外国政権を転覆させてきた。すなわちそれが陰の政府の政策であり、世界中で諜報活動を行う中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)がその支援を行ってきた。例えばオバマ前大統領はシリアでアサド政権を交代させるために介入し、CIAは武器と資金を供給してきたようにだ。しかしトランプ大統領は、誰がシリアの政権をとろうともアメリカは関知すべきではないとし、過激派組織「イスラム国」(IS)やアルカイダを壊滅するためにはロシアを助けるべきだとさえ言ったが、この構想はプーチン政権を崩壊させ、ユーラシアを不安定にして米軍基地を拡張し、中国の成長を妨げたい影の政府の意図を妨害することになる。
その思想に過激で危険な部分があろうとも、トランプ氏はアメリカ国民が選んだ大統領である。その大統領を、国民が選んでいない陰の政府、つまりウォール街や大企業の経営者、マスメディアといった富裕層がCIAなどを利用して弱体化させようとしているのが今のアメリカなのである。
日本にもかつて違う種類の「陰の政府」があったように思う。アメリカの社会学者が『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本を書いた1970年代、日本では政治家の代わりに通産省の官僚や大蔵省の役人が国家や国民のことを考えた経済政策をとり高度経済成長を遂げてきた。その官僚たちが国民を犠牲にして大企業やアメリカのための政策をとるようになったのは、アメリカの要求で日銀総裁が前川リポートを出した1980年代後半からだった。
貧富の格差が広がるほど、持てる者はお金の力で政治を動かし、マスメディアをコントロールするようになる。官僚も国民のためでなく、天下り先などお金のために奉仕するようになる。アメリカのまねをするうちに日本もアメリカと同じような独裁体制が敷かれつつあるのかもしれない。