産業用機械から日常に使う家電製品まで、相互にネットワークで接続される「モノのインターネット(IoT)」が急速に広まっている。
IoTでは、相互接続された「モノ」たちは人間が仕事をしたり寝ている間にも、情報を送ったり、何かを動かしたりすることができる。将来的には家電製品、自動車、住宅から都市部の道路までもがインターネットでつながって生活やビジネスを改善する可能性があるという。今、日本では、メーカーだけでなく政府主導でIoTを推進するコンソーシアムが作られるなど、到来するIoT時代に向けて産官学が参画・連携し、技術開発、実証、ビジネスモデル創出を推進している。
しかし本当に一般国民はIoTを求めているのだろうか。例えばアメリカでは、数年前からインターネットに接続された「スマート」洗濯機が販売されているが、いまだにそれほど広まっていないという。なぜなら洗濯が終わったことを電子メールで教えてもらいたい人はそれほど多くないからだ。では誰がIoTの普及を進めているのかといえば、まず挙げられるのは政府であり、中央情報局(CIA)などの諜報機関がコンピューターや電話を通して盗聴や通信傍受をしていることは、すでに明らかにされている。スマートメーターやクレジットカード、さまざまなスマート家電が普及すれば監視の幅はさらに広がるからだ。
この希望的観測に過ぎない「IoT市場」に、巨額の投資が行われる理由の一つはデータの収集である。消費者の趣味嗜好や購買履歴、どんなインターネット・サイトを見ているか、交友関係から週末の過ごし方まで、その一挙一動を調べ上げた「ビッグデータ」を収集できるからである。消費者がIoTを持つほど企業はデータを集めることができ、集めるほどその消費者の行動パターンを知ることができる。そして行動パターンを知れば、次はその行動をコントロールすることができるのである。
去る3月、ウィキリークスはCIAが行ったハッキングを暴露したが、そこで明らかにされたのは、IoTによってより簡単に監視が行えるようになるということだった。インターネット・サービス・プロバイダーはさまざまなデータを収集し、それを広告主やビッグ・データ業者、そして政府や取り締まり機関に売り渡すことさえあり得る。つまりIoTが、ジョージ・オーウェルが著書『1984年』で書いたような警察国家にアメリカがなることを可能にする、ということなのである。
利用者である消費者は、IoTを提供する機器やベンダーが、その接続が本当に安全かどうかを確認してくれない、あるいはできないことを理解しておくべきだろう。IoTを利用することで得られる利便性がある一方で、その利便性ゆえにシステムが簡単に乗っ取られたりする高いリスクもある。IoTの機器を使うことでデータがさまざまな会社に送り返され、そのデータはサーバに保管され、政府やハッカーがこれにアクセスする可能性があるということだ。スマートホームやスマートシティーといったIoTの世界に興味がある人は、これらを十分理解した上で入らなければいけないだろう。
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