大規模な減税とインフラ投資を行うことを公約に掲げたトランプ氏が大統領になったアメリカでは、その期待から債券市場が活況し、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを決定した。
アメリカの債券市場の影響を受ける日本も、2016年2月からマイナス金利が導入されているにもかかわらず、大手銀行の中には住宅ローン金利を引き上げるところも出始めた。しかし株価が上がっても米国では労働者の賃金は増えておらず、実際に経済が上向いてきていることを示すデータはない。
FRBが政策金利を引き下げたのは、民間銀行が安い金利でお金を調達でき、企業は安い金利でお金を借りることができるようにするためである。それによって経済が活発になり、景気が良くなるはずというのが利下げの理由であった。しかし実際は、株価は上がっても労働者の賃金が上がることはなかった。
利下げで景気が良くなれば購買意欲が上がり、物価も上昇する。しかしそれでインフレになると通貨の価値が下がるので、それを調整するために利上げが行われる。利上げにより企業は投資に慎重になり、今度はお金の流通量が減っていく。しかし今回は、景気が回復していないアメリカで利上げをするというのだが、労働者にとってこれは良いはずはない。
なぜFRBは国民のためにならない政策をとるのだろう。それはFRBが政府機関ではなく、アメリカにある12の連邦準備銀行の集合体にすぎないからだ。12の銀行の持ち主は、たとえばニューヨーク連邦準備銀行の株主はゴールドマン・サックスやオランダのウォーバグ銀行、イギリスのロスチャイルド銀行といった欧米の国際金融資本であり、アメリカ政府は連邦準備銀行の株を1株も保有してはいないのである。中央銀行の役割は、通貨の発行や通貨価値や物価の安定だといわれるが、これらは後から理論化されたものにちがいない。なぜならFRBはアメリカ国民のための機関ではなく、銀行自らの利益と、外国の顧客の利益のために奉仕をする存在だからだ。
FRBが、国民の雇用を増やしたり経済を活性化させたりするために政策金利を上げ下げしている、と考えるのはばかげているといえる。むしろアメリカをここまで格差社会にした大きな原因の一つが、FRBの政策なのだ。FRBの政策こそが、少数の人々に富を集中させることを可能にし、一方で多くの人の所得が奪われ、賃金が停滞し、ヘルスケアや教育費が増え、一般国民の生活水準は徐々に低下していったのである。
人種差別的な発言を繰り返し排外主義的な右翼思想を持つトランプ氏をアメリカ国民が大統領に選んだのは、格差社会に絶望し、これまでの政治の本流以外に解決策を求めたためであろう。その責任の一端は、国民が求める安定や高い雇用率を実現するような政策を提供してこなかったFRBにある。
日本でも日銀が物価を2%上げようとしているが、非正規雇用の労働者が全体の38%まで増えて賃金格差が拡大し、日本の貧困率は経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均よりも高い。日銀の株主は政府が55%だが、残りの株は誰が持っているのかは非公開である。誰のための政策なのか。日銀の株主を知りたいものだ。