No.1185 北朝鮮の核保有背景

アメリカが朝鮮半島海域に原子力潜水艦や原子力空母を派遣するなど緊張感が高まる中、北朝鮮は4月29日、弾道ミサイルを発射、空中で爆破し、実験は失敗に終わったという。

日本のメディアはこの実験を大きく報じ、東京の地下鉄と北陸新幹線が運行を一時停止したが、ゴールデンウイークで出国ラッシュにあった成田空港は平常通りであったし、ミサイルを撃ち込まれたら大変なはずの原子力発電所も稼働を続けていた。安倍首相はじめ閣僚の多くが外遊中で日本にはいなかったことも考えると、地下鉄を止めたのもただ危機をあおるためだったのかもしれない。

朝鮮半島で緊張が高まったのは、3月にアメリカが過去最大の軍事演習を韓国と行ったことが一因だ。トランプ大統領は原子力空母カール・ビンソンの朝鮮半島近海への展開を指示し、ティラーソン国務長官はシリア攻撃は北朝鮮をけん制したものだという発言もした。そしてトランプ大統領は(北朝鮮制裁を)中国がやらないなら、アメリカと同盟国で行うとさえ言った。こうした事実経過を先入観抜きで見ると、アメリカと北朝鮮、どちらが挑発しているかは明白で、圧倒的な軍事力で相手を刺激していたのはアメリカの方なのである。

北朝鮮が核兵器を開発、保有する背景には休戦中の朝鮮戦争がある。多くのアメリカ人は、「911」以前にアメリカが行った戦争の記憶を忘れてしまったようだが、1950年に起きた朝鮮戦争では300万人近い人が朝鮮半島で殺された。当時、マッカーサーは核兵器を使って北朝鮮を世界地図から抹消することも検討したが、核兵器を使えばソ連との原爆戦争になる事を恐れたトルーマン大統領は核の使用を却下したという。

朝鮮戦争でアメリカが北朝鮮に行った爆撃は第2次大戦のどの攻撃よりもひどかった。第2次大戦で日本は核兵器を持っていなかったからアメリカは日本に原爆を落とした。これが、北朝鮮が核兵器を持ちたい理由なのである。北朝鮮はいかなるアメリカの命令にも屈しないし、そのためにも核兵器が必要なのである。

クリントン政権時代の1994年、核兵器を開発しようとしていた北朝鮮に対し、アメリカは軽水炉を共同で建設し、また経済的支援をするとしてプルトニウム濃縮計画を凍結させることで合意した。しかし「911」の後、ブッシュ政権は北朝鮮を悪の枢軸国だと指定して、これらの約束を全て破棄している。北朝鮮が核兵器保有にこだわるのは、核開発を放棄したイラクのフセイン政権とリビアのカダフィ政権という前例もある。特に反米同志だったリビアとはミサイル供与も含め軍事交流があり、北朝鮮は核開発計画を放棄すると命取りになると判断したのかもしれない。

安倍首相は国会で「北朝鮮が真剣に対話に応じるよう圧力をかけていくことが必要」と述べたというが、対話に応じるべきなのは50年から北朝鮮を破壊し、今でも脅し続けるアメリカのほうであろう。しかし残念ながらオバマ、ブッシュと同様、トランプ大統領も北朝鮮と平和的解決を促進することに興味はないようである。