勝者が歴史をつくる、という言葉がある。例えば西洋史で、十字軍はキリスト教国家が聖地エルサレムをイスラム諸国から取り戻そうとして派遣した遠征軍だと教えられた。しかしイスラム諸国からすれば、十字軍は領土を拡大するためにイスラム教徒を容赦なく虐殺した軍隊であり、十字軍遠征は宗教戦争というよりも侵略戦争ではなかったかという見方もできる。
もちろん全ての歴史が勝者によって書かれたわけではないだろう。ジョージ・オーウェルは「現在を支配するものが、過去も支配する」と記したが、政府が指定する教科書や大企業が支配するメディアが流している歴史観をみると、その時の支配者にとってふさわしい内容であることは間違いない。
戦後、日本で教えられている歴史教育やメディアの報道は、戦勝国であるアメリカの歴史観といってもよいだろう。だからこそアメリカが「世界平和に対する脅威を画策している」と指定した国は、日本にとっても脅威であり、戦うべき相手国となるのである。2001年9月11日の後、ブッシュ大統領はアメリカ国内のヒステリックな状況の中で「悪の枢軸との戦い」を打ち出した。悪の枢軸はイラク、イラン、北朝鮮であり、それら「ならず者国家」はテロや大量破壊兵器を拡散するため、政権交代が必要だとして突入したのがイラク戦争であった。日本は戦争を支持して資金を拠出し、自衛隊を派遣、さらに米国債を大量に購入して戦費を負担したのである。その後、開戦の理由となった大量破壊兵器をイラクは持っていないことが明らかになったが、それが広く報じられることも検証されることもなかった。
戦争に負けた日本では、戦勝国アメリカが国家安全保障という名目で第2次大戦終結後も世界中で紛争や攻撃を繰り広げてきたことは教えられていない。もし、アメリカが朝鮮半島、ベトナムやイラク、アフガニスタンなどで行った攻撃と、それがもたらした大勢の死傷者、混乱、貧困、難民、環境破壊といった現実を知っていれば、日本が攻撃されていなくてもアメリカの戦争に加担できる「集団的自衛権」の行使を認める法が成立することはなかったかもしれない。
アメリカは成り立ちからして北米先住民族を駆逐して西方拡大を続け、元スペイン植民地のキューバ、プエルトリコ、フィリピン、グアムやハワイを併合してきた。日本に核兵器を投下して第2次大戦は終わったが、すぐに共にナチスと戦ったソ連との冷戦が始まり、1991年のソ連崩壊後もロシアを脅威とみなし続け、米国民に、世界に混乱をもたらす原因がロシアにあるかのように信じさせることに成功している。そしてアメリカはシリアでミサイルを発射し、イエメンを爆撃し、ソマリアに軍隊を送り続けている。
安倍政権が進める改憲も共謀罪法案も、日本をアメリカ追随の「戦争をする国」に導く動きの一環ともいえる。他国の思惑に翻弄されることなく、主体的に考え、行動するためには政治家だけでなく国民も歴史を学ぶ必要がある。