6月初旬、安倍首相は中国の経済圏「一帯一路」構想に、条件付きで日本も協力していきたいと述べたという。
中国は「シルクロード」を通じて歴史的に中央アジアやヨーロッパと交易を行ってきた。このシルクロードの沿線国に、道路や鉄道、発電所や港湾などのインフラを整備して経済や人的交流を活性化させようという「一帯一路」構想を数年前から打ち出してきたのが習近平国家主席であり、「一帯」とは中国からヨーロッパにいたる陸路の経済ベルトで、「一路」はインド洋や南シナ海を経由する海の道のことである。
構想を実現するために、すでに習主席はアジアインフラ投資銀行(AIIB)も設立している。AIIBにはアジアだけでなくイギリス、フランス、ドイツを含む約80の国や地域が加わっているが、日本は宗主国アメリカに倣い、AIIBの運営が不透明だとして参加してはいない。ロシアは、中国とインドに次ぐ第3位の株主であり、欧州連合(EU)ではドイツがAIIBの最大の出資国となっている。
去る5月に北京で開かれた一帯一路サミットには、ロシアのプーチン大統領など29カ国の首脳と1300カ国以上の代表団、そして国連や国際通貨基金(IMF)、世界銀行など約70の国際機関が参加した。アメリカが高高度防衛ミサイル(THAAD)ミサイルを韓国に設置したことで中国との関係が悪化していた韓国も、新大統領が参加を表明し、また北朝鮮も代表を送った。しかしG7から首脳が出席したのはイタリアだけだった。
朝鮮半島で紛争の兆しがあると危機をあおる一方で、国内は連邦捜査局(FBI)長官の解任など迷走の続くアメリカのトランプ政権だが、5月に入ってから中国への牛肉輸出や金融サービスの市場開放を勝ち取ったこともあり、一帯一路の重要性を認識するとして、国家安全保障会議で東アジアを担当する無名のマット・ポッティンガー氏を派遣した。
北京で行われたこの国際会議の参加者をみてわかるのは、アメリカによる世界の一極支配の終焉かもしれない。もはや同盟国でさえもアメリカが唯一の超大国だとは思っていないということだ。もちろん保有する核兵器は依然とアメリカが世界一かもしれない。しかし北京で提起されたのは「各国の発展の道を尊重し、他国の内政に干渉せず、協力によるWin-Winを追求する平和の道」であり、軍事力による脅しではなかった。
「一帯一路」構想の成功は、もちろん中国次第である。中国経済のためにさまざまなひも付きということになれば途上国を含めて融資を受けることに二の足を踏むところも出てくるだろう。批判的だった日本が、条件付きながらも協力を表明した理由には、トランプ政権がアメリカ第一主義を掲げ、期待していた環太平洋連携協定(TPP)から離脱したために、中国市場と一帯一路が重要になってきたからかもしれない。日本には、かつてシルクロードを経由してさまざまな文化が入ってきた。どのような理由であっても日本政府が中国との戦争ではなく協力を選択するのなら、日本国民として歓迎したい。