今年4月に北朝鮮がミサイル実験を行った後、日本で核シェルターの販売が増加したと報じられた。核攻撃を受ければ、爆風や放射線から逃れるために数日間はシェルター内にいる必要がある。原爆を投下された日本が、再び核兵器の恐怖に脅かされる時代になったのだ。
核の脅威を想定しているのは日本だけではない。今年5月、核戦争に備えてアメリカに造られた広大な核シェルターに関する本を米ジャーナリスト、ギャレット・グラフ氏が出版した。『レイブン・ロック』(Raven Rock:The Story of the U.S. Government’s Secret Plan to Save Itself- While the Rest of Us Die)というタイトルで、冷戦時代に歴代の米大統領が核戦争が起きた際に自分たちだけが助かるように、首都ワシントン近郊のレイブン・ロックという山に造った秘密の地下シェルターに関する実話だという。
この本によれば、米国政府は当時のソ連から核攻撃を受けた場合に政府高官が生き残ることができるような核シェルターを数カ所建設してきたという。レイブン・ロックはキャンプ・デービッドと呼ばれるメリーランド州にある大統領の別荘から20キロくらいの所にあり、冷戦さなかの1951年から建設が始まった。シェルターには1400人が収容でき、発電設備、病院、カフェまであるという。 核攻撃を受けてシェルターに逃げ込むことができるのは特別のIDカードを持つ大統領はじめ米国政府のエリートたちだけであり、このシェルターにおいて政府機能を存続させていく計画である。核攻撃を受けたその他の国民は、広島や長崎で犠牲になった人々と同じ運命をたどる。これが米国政府の核戦争に対する準備なのである。民主主義国家において主権は政府ではなく国民にあり、法の下で平等な保護を受ける権利を持つ。基本的人権の擁護が民主主義国家の重要な機能の一つであることを考えても、アメリカは民主主義国家であるとは言えないだろう。
一方で全国民のために核シェルターを持っているのがスイスである。永世中立国として自衛以外は戦争をする権利を持たず、他国が戦争状態にあっても中立を守るとしているスイスは、放射性物質から遮断するために、住宅、病院、学校、公共施設などに地下シェルターを造り、全国民の数を上回る人を収容できるようになっているという。スイスが核シェルターを造り始めたのも冷戦時で、武力攻撃を受けた場合に国民は保護される権利を持つとして設置を義務付ける連邦法が制定された。世界で戦争をし続け、敵を作りながら政府のエリートのためだけに核シェルターを準備している米国とは対照的である。
日本が攻撃を受けたら、政府は「国民保護サイレン」を鳴らして国民に知らせるというが、核攻撃であれば米国民と同じく日本国民も死を待つしかない。核戦争という最悪のシナリオに対する最善の方法は、能力と理性のある国家指導者が戦争そのものを回避することだが、改憲して戦争ができる国にしたい安倍首相にそれを期待することは難しいだろう。