新技術の適用により世の中が大きく変わっていくという話を聞いても、変化の途中においては、当事者でなければそれを実感するのは難しいかもしれない。
世界最大級の投資銀行米ゴールドマン・サックスは、巨額の株式売買を行い、株式トレーダーは高額の報酬を得ていることで知られている。2000年には米国本社に600人の株式トレーダーが在籍し、顧客の注文に応じて株を売買していたが、この部門には今、たった2人のトレーダーしか残っていない。株式売買がすべてコンピューターによって自動化されたためである。
トレーダーに代わって200人のコンピューター・エンジニアが株式取引を支えており、同社はさらに自動化を進めるとし、新しい消費者金融プラットフォームなどはすべてソフトウェアだけで稼働し、人間は一切関わっていないという。
日本ではまだ普及していない「配車サービス」のウーバーも、新技術によってもたらされたビジネスである。お金を払うと目的地まで運んでくれるタクシーのようなものだが、違いはドライバーが一般人という点だ。スマートフォンの機能を使い、利用したい人が現在地を特定すると、ウーバーに登録している車の中で最も近い車に通知され、迎えに来るという仕組みである。
支払いも事前にクレジットカードを登録しているため、ドライバーに支払う必要はない。米国にはウーバーの競合のリフトというライドシェア企業もあり、ドライバーの多くはウーバーとリフトの両方のアプリを使用、つまりかけもちで仕事をしているという。そして今ウーバーは、自動運転車による運転テストを開始している。
自動車が登場した頃、車を持つことはステータスでもあった。その後、米国は自動車社会となり、誰もが車を所有し、運転するようになる。その米国で、車が「所有するもの」から「ライドシェアリング(相乗り)」という概念が受け入れられ始めたのである。米国のある調査によれば、自動運転車に関しても肯定的な見方が少なくなく、特に高齢者に関しては本人が運転するよりも事故が少ないのではと期待されているという。
一方、日本においては、京都府最北部の京丹後市で昨年から地域住民の足として「ウーバー」の技術を利用したライドシェアが行われている。利用はしたいがITに弱い高齢者にはタブレットの貸し出しやサポートも行っているという。公共交通機関のない地域で、高齢になり自分で運転ができなくなった人に、ライドシェアは柔軟な移動手段となることは間違いないだろう。
常に先を行く国として日本が手本とする米国を見れば、これからもコンピューター化は進み、自動運転車もそう遠くないだろう。トヨタ自動車も米ウーバーとの資本業務提携を昨年発表している。配車サービスが普及すれば、自動車を所有しようと考える人は少なくなり、販売面でマイナスの影響がありそうに思えるが、それでもトヨタがウーバーと提携するということは、今後ライドシェアが大きく伸びるとトヨタが考えているということだろう。