技術進歩によりあらゆる分野で自動化が進む現代、株式市場も例外ではない。特に米国では、株の売買の半分以上がコンピュータプログラムによって実行されている。
2014年、米国のノンフィクション作家、マイケル・ルイス氏が「Flash Boys」という本を出版した。この本が暴いたのは10億分の1秒単位の超高速ネットワークを活用して、他の投資家より「ナノ秒」の速さで取引を実行することで勝率100%の金融取引を合法的に行う集団の存在だった。
株取引をするには投資家が証券会社に電話をし、証券会社から人を介して取引所へ発注されていたものだが、今では立会場で大きな声で叫ぶトレーダーの代わりにコンピュータの中で売り買いの注文がなされるようになった。本のタイトル「フラッシュボーイズ」は、このコンピュータ化された市場で高度な技術や光ファイバー、マイクロ波回線などを使い、数千分の1秒単位で他の投資家の注文を先回りして、取引を先に執行する「超高速取引業者」のことである。
本の主人公である日系カナダ人のカツヤマ氏はカナダの銀行でトレーダーをしている時に、株取引のコンピュータ画面では注文できることになっている値段で株取引ができない場合があることに気づいた。米国では規制緩和によって多くの証券取引所ができているが、超高速取引業者がスピードを武器にし、複数の取引所のデータを受け取り、注文を執行するのにかかる時間の差を利用して取引をしていたのである。
たとえば証券会社が注文情報を入力し、それが実行されていない段階で超高速取引業者がその株を買い入れる。それにより株価が上がり、最初に買おうとしていた証券会社は上がった価格で株を買うことになる。一連の取引がコンピュータ化されているため、情報を先に手にした超高速取引業者が先回りして利益を得ているのである。
カツヤマ氏は超高速取引業者とそれ以外の人が公平に取引できる場を提供することを目指して2012年に自身で株の取引所を設立したが、これで問題が解決したわけではない。現在、株の売買の半分以上はボットと呼ばれる、インターネットの上で自動化されたタスクを実行するソフトウエアによって行われている。それは高速でWebページから情報を自動的に集め、内容を分析し、分類している。株式市場は企業が資金調達を行うためという元来の目的を失い、最も速くもうけを出すためのスロットマシンになったのである。
米国の銀行や証券会社は人員削減を進め新しいAIとスーパーコンピュータを使った取引に移行しつつある。より良い教育を受けた従業員ではなく、より高速な回線に投資しているのだ。どんなに優れたAIが株取引に使われようとも、富裕層をさらに富ませるため多くの利益を出すようにプログラミングされれば、株価は企業価値や業績とは関係なく上下するようになる。そしてそれは経済や社会に予想もつかない影響を及ぼすことになるだろう。