トランプ氏が大統領に就任してからアメリカでは、前政権の政策が次々と転換されている。環太平洋経済連携協定(TPP)を白紙にし、地球温暖化を防ぐことを目的とした「パリ協定」からの離脱、そして10月にはイランの核合意順守を認めないとトランプ大統領は宣言した。
イラン核合意とは20155年にアメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアにドイツとEUを加えた7者がイランと交渉して妥結した「包括的共同作業計画(JCPOA)」のことである。
これに基づいて今後15年間にイランが保有できる濃縮ウランは低濃縮ウラン300キロに制限され、ウラン濃縮用遠心分離機は平和目的に使われる機械6千個を残して廃棄された。イランは核兵器開発が疑われる全施設に対する国際原子力機関(IAEA)の視察団を受け入れる条件で欧米の経済制裁から抜け出し、石油輸出と金融取引が再開されたのである。
トランプ大統領はイランが合意を複数違反していると非難したが、アメリカ以外の国は、核合意を順守しているという立場をとっている。IAEAはイランの関連施設を8回視察し、トランプ大統領の主張に対して報告書を再確認し、またイランはJCPOAに準拠しているというコメントも発表した。イランの核合意は2015年の国連安全理事会で満場一致で批准されたものであり、アメリカとイランの2国間協定ではないのである。
たとえアメリカが合意を撤回しても、理論的にはその他の国はイランとの核合意を支持し、アメリカ抜きで貿易や投資を続けることは可能である。ロシアと中国は石油とガスの協定をイランと結んでおり、特に中国はイランの最大の貿易相手国で最も重要な輸出品は原油なのだ。
また地理的にも近い欧州の国々はJCPOA以後、特にエネルギーやインフラの分野でイランへの投資やプロジェクトが始まっている。天然資源に加え、人口8千万人を擁するイランへの商機を見逃すはずはない。それらの事業計画にトランプ氏は待ったをかけようとしている。
大統領就任以前からトランプ氏はイランへの強硬姿勢を表し、就任後すぐにイランやイラクなど7カ国の人の入国を禁じた。一方的に入国を拒否するアメリカへの反発からイランは弾道ミサイルの発射実験を実施し、一気に両国の関係が揺らぎ始めたのである。
トランプ大統領の行動はイラン核合意に反対してきたイスラエルやサウジアラビアを満足させるためだという見方もあるが、それが中東にもたらす影響はあまりにも大きい。北朝鮮、そしてイランを「ならず者国家」と呼び、敵対的な態度をとることでアメリカは朝鮮半島と中東の両方に火種をともしたのである。
優れたビジネスマンであるトランプ大統領が掲げる「アメリカファースト」とは、不安定な国際関係の上でアメリカの兵器産業が利益を上げることかもしれないが、自らを世界のリーダーだとして西側同盟国のための保護者のように振る舞うその傲慢な態度こそが国際関係における問題であり、それによってますます世界は多極化していくことになるのであろう。