No. 1208 人民元の基軸通貨化

昨年末、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権が発表した国家安全保障戦略において、アメリカは中国やロシアを「Revisionist power」(現状打破勢力)と呼び、アメリカの影響力に挑む敵国とみなしていることを明らかにした。

中露は近隣諸国と強いパートナーシップを築き、地理と政治、そして経済においてユーラシアを掌握しつつある。昨年9月に中国福建省で開催されたBRICS首脳会議で採択された「アモイ宣言」では、トランプ政権の保護主義への反対を表明し、北朝鮮による核実験を強く非難しながらも、平和的な対話による解決を訴え、アメリカの朝鮮半島への軍事介入や経済制裁に反対した。

BRICS首脳会議においてプーチン大統領は、限られた準備通貨による過剰支配を克服することも示唆した。その準備通貨とは米ドルのことであり、すでに中国は人民元建てで金に換金可能な原油先物取引を開始する用意もある。原油取引において人民元は金と兌換(だかん)されるため、例えば原油輸出国が金での支払いを望んでも問題はないのである。

中国人民銀行が運営する中国外国為替取引システムのWebサイトは人民元とロシアルーブルの決済システムの構築を発表しており、一帯一路構想に基づき、他の外貨業務でも同様のシステムを始めるという。アメリカの国家安全保障戦略がこれらの動きに反応したものであることは間違いない。

現在多くの国は、国際貿易で支払うための準備通貨として米ドルを保有している。中国だけでなくアメリカの経済制裁下にあるロシアやイラン、そしてイラン寄りの原油輸出国が人民元建てで貿易を行うようになれば、米ドルを基軸とした世界の金融システム、すなわち米ドル覇権にとって大打撃となるのである。

米ドルが基軸通貨となったのは1970年代、アメリカとサウジアラビアが米ドルのみで原油取引を行うようになってからだ。基軸通貨のメリットは、ほぼ無限にお金を生み出せることにある。アメリカが外国から物を買う時、国庫にお金がなくてもただドルを印刷すればよい。だからこそアメリカは政府支出を抑制することなく財政赤字を膨らませ、収入をはるかに超える国家運営を行い、その過剰な赤字によって世界的な経済不均衡が引き起こされてきた。

日本や中国といった貿易黒字国は余剰ドルの大部分で米国債を購入し、アメリカは還流された資金を使って世界のあちこちで戦争を行った。この現状を打破しようとしたイラクのサダム・フセインやリビアのカダフィはアメリカによって排除された。しかしトランプ政権が今、中国とロシアを相手にイラクやリビアに対して行ったのと同じことができるとは思えない。

米ドルが基軸通貨でなくなることはアメリカの国家安全保障を脅かす問題以外の何物でもない。しかしユーラシアの二大国は、慎重かつ着実に、人民元の基軸通貨化による世界貿易の仕組みと国際金融制度を大きく変える実行可能な代替策をとり始めている。