アベノミクスが失敗に終わったということは、マイナス金利になっても景気が回復しない日銀政策、継続するデフレ、実質賃金の低下などから明らかである。しかし株価上昇により富裕層や大企業が恩恵を受けているため、主流メディアがそれを報じることはない。
アベノミクスという経済政策は貧富の格差をもたらした。政治家や官僚は経済的に恵まれた人々がほとんどで、話題になっている奨学金の返済で苦しむ若者の現実など目に入らないのかもしれない。それとも自己責任だとでも言うだろうか。アベノミクスによる5年間は特に若年層の貧困を増加させた。それは貧困を固定化させることでもある。経済が右肩上がりの時代と違い、景気の停滞する日本で借金を抱えて社会人をスタートすることはかなり厳しいからだ。
学資ローンといえば、これまで米国が抱える問題だった。米国の学資ローンの債務残高は1兆3千億ドル以上と自動車ローンを上回り、住宅ローンに次ぐ大きな金額となっている。米国の若者の半数以上は、奨学金や融資すなわち借金で大学を卒業する。4年制大学なら卒業時平均で360万円の借金がある。大学を出て就職しても、米国の低い賃金上昇率では返済は厳しい。この米国の後を追いかけるように日本でも同じような状況が起きているのだ。
日本のマスメディアは米国の陰の部分についてほとんど報じないが、米国の一般庶民の生活は株価などの経済指標とは裏腹に悪化の一途をたどっている。あらゆる経済指標を見ても、米国の経済成長の恩恵は日本のアベノミクス同様、上位の人々の手に渡っているからだ。
昨年12月、国連は、米国アラバマ州の貧困は先進国で最悪とする特別報告書を発表した。米国南部のアラバマ州を訪れたのは、国連で貧困と人権状況を視察する調査団だった。調査員が目にしたのは下水道も配備されておらず、各家庭から出る未処理の汚水が溝に垂れ流されている光景だった。米国各地ではここ数年、不衛生な状況がもたらす寄生虫による感染症が流行していた。これらはアフリカ諸国など、上下水道の設備の無い、衛生状態の悪い国でしか発生しないものである。それが、豊かな国だと日本国民が信じている米国では起きていたのである。
所得格差が広がると、その影響を真っ先に受けるのは米国の場合、人種的なマイノリティー、つまりアフリカ系の人々である。アラバマ州といえば米国におけるキング牧師による公民権運動のバス・ボイコット運動が始まったのもアラバマ州モンゴメリー市だった。日本人が豊かな国と憧れる米国だが、実際には根強い人種差別は今でも続き、貧困のまん延により下水道を修理することもできず、また政府自治体もその状況を放置しているのである。
政府の仕事は株価を上げることではなく、国民が安全に人間らしい暮らしができるようにすることだ。極度の貧困に陥ることがないような政策をとることであり、ましてや貧困に陥った人を自己責任として見捨ててはならない。