3月にロシアで行われた大統領選挙では予想通りプーチン氏が圧勝した。これに先立って3月1日、プーチン大統領はロシア議会で年頭の演説を行ったが、そこで注目されたのはロシアの新型兵器の発表だった。
開発中の極超音速グライダーや、弾道ミサイルに無限の射程距離を持たせたことで米国の弾道ミサイル迎撃システムが役に立たなくなり、冷戦終結後のパラダイムが激変したのである。日本が米国の核の傘に守られていると信じる人は、ロシアが日本にとってさらに危険な国になったかのような印象を持ったかもしれない。しかしプーチン大統領は、核兵器を使用するのはロシアが米国から核攻撃を受けた時だけとし、核兵器が決して使われないことを望んでいるとも明言した。
またなぜロシアがこのような兵器を造ることを選択したのかも語った。米国だけでなく日本もその背景を理解しておく必要がある。2001年、米国は弾道弾迎撃ミサイル制限条約からの脱退を発表した。この条約は1972年に米ソが締結したもので、戦略弾道ミサイルを迎撃するミサイル・システムの開発、配備を厳しく制限することを規定していた。これにより核攻撃を相互に抑止することが目的だったが、米国はミサイル防衛を推進するためにこの条約から脱退したのだった。
米国がロシアの信頼を裏切る行動をしたのも無理はない。ソ連崩壊後のロシアは、IMFや世界銀行の融資なしには経済が成り立たないほど弱体化していた。兵器は陳腐化し、戦略兵器の開発どころかウラン濃縮施設を適切に管理しているか米国視察団が訪れるほどであり、米国はロシア経済が近い将来回復することは不可能だと考えたのであろう。
その後核兵器削減という国際世論の動きから、世界の二大核保有国は2011年に新戦略兵器削減条約を発効した。しかしそれにもかかわらず米国はミサイル防衛を推進し、アラスカ、東欧、韓国や日本にもミサイル防衛システムを配備したため、対してロシアは抑止力のバランスを 崩していると訴えたが、米国はそれも無視し続けてきた。
ロシアの新兵器の発表は、相手を「力」で威嚇するという米国の常とう手段をとったまでのことである。ロシアの新しい兵器について米国はすでに情報を得ていたため、だからこそ昨年から、大統領選挙でトランプが勝利するようロシアが干渉したとか、プーチンを独裁者だと決めつけてロシアを悪者に仕立て上げてきた。しかしロシアの新兵器により、米国が世界一の軍事費をかけて造ってきた弾道ミサイルが全く役に立たないものとなってしまった事実は変わらない。
誇るものは軍事力だけだった米国が兵器レースでロシアに先を越されたのであれば、残る道はロシアと和解するしかない。演説でプーチンは、これ以上、世界に脅威をつくる必要はない、人類のために世界の安全と持続可能な発展の新しい適切なシステムを共に考えよう、とも語った。これ以上ロシアの脅威をあおるのではなく、米国も、そして日本も、この交渉テーブルに着くべきであろう。