No. 1229 多極的世界秩序へ加速

7月末、トランプ大統領は欧州委員長と会談し、EU側が懸念していた自動車への追加関税が見送られた。米国産の大豆と液化天然ガスのEUへの輸出拡大について合意し、激化する貿易摩擦に歯止めがかかったといえる。

これとは逆に過熱しているのが中国との貿易摩擦だ。7月上旬に中国製品340億ドルに25%の関税を発動したばかりのトランプ大統領は、「中国は長い間米国を利用し続けてきた」と非難し、米国に輸入される中国製品5千億ドルに追加関税をかける用意があると発言したが、23日、中国製品160億ドルに25%の関税を上乗せする措置を発動したのである。米国に中国製品があふれている一方で、中国は米国から金額にして4分の1程度しか輸入していない。

さらにウォールストリートジャーナル紙によると、米国の不動産を買いあさっていた中国投資家が、7月には売り越し、つまり不動産売却の方が多かったという。中国企業の対米投資は近年拡大の一途であったが、トランプ政権になってから減少し、今年に入ってからは過去7年で最低の水準となっていた。また中国政府は関税の報復として、国内にある多くの米国企業の工場に対して免許の取り消しなど締め付けを行う可能性もあるとみられている。

貿易問題を含んで、トランプ大統領の外交政策は一貫性に欠け、次に何をするのか予測ができないと米国の主流メディアは酷評するが、大統領選挙の公約時からの発言や就任後の行動を見るとそこには基本的な戦略がある。米国の単独覇権主義を終わらせることだ。

トランプ大統領は大統領選挙の時から世界中の米軍基地撤収を公約にしていた。トランプ大統領が在日米軍撤退の可能性に言及した際、安倍首相は「米国の存在が不必要となる状況は考えられない」と言ったが、北朝鮮はもはや日本の脅威ではなくなったのである。

トランプ大統領とロシアのプーチン大統領が7月にヘルシンキで首脳会談を行った際も、米メディアは相変わらず大統領選でロシアが民主党のコンピューターネットワークをハッキングしたことを話題にしたが、トランプ大統領はロシアへの批判めいた言葉は発しなかった。代わりにツイッターで、「明るい未来を築くためには過去にばかりこだわってはならない。世界の二大核保有国として、米ロは仲良くしなければならない」と投稿した。

米国による単独覇権から多極的世界秩序への転換は中国やロシアが目指してきたものであり、中央アジア諸国を交えた「上海協力機構」や「一帯一路」構想などを通してすでに基盤も出来上がっている。トランプ大統領が中国との貿易戦争をあおるのは、中国が製造大国となり米国に代わって世界覇権の中心になることを阻止するためかもしれない。いずれにしても単独覇権主義をとってきた歴代米大統領からトランプ大統領になって多極的世界秩序への移行が加速することだけは間違いないだろう。