安倍首相は9月23日の英フィナンシャル・タイムズ紙に気候変動問題について寄稿し、経済成長と化石燃料の使用削減を両立させないといけないと訴えた。
ここ数カ月だけで、日本は度重なる大きな自然災害に襲われた。寄稿の中で安倍晋三首相も記録的な猛暑や西日本豪雨について触れ、「気候変動問題は予測よりも急速に悪化している。我々はより強力な対策を迅速に打たないといけない」として、先進国と発展途上国双方が危機感を共有し、全ての国が温室効果ガス削減の目標を達成するよう求めた。
地球上で年々激しくなる気候変動に関して、熱帯雨林の消失、漁場の崩壊、絶滅危機にある生き物等々、メディアや環境問題に取り組む団体は以前から警鐘を鳴らしてきた。気候変動の原因の一つは二酸化炭素による温室効果ガスの増加にあるとされ、二酸化炭素の排出量を削減し、併せて二酸化炭素を吸収する植物を保護するために伐採の進む熱帯雨林を保全することで温暖化の防止と生物多様性を守ろうというものである。
安倍首相が寄稿で主張した経済成長と化石燃料の使用削減の両立は、グリーン成長といわれる。これまで経済成長だけが重視されてきたが、それは結果的に資源の過剰消費、二酸化炭素の大量排出と環境破壊がもたらされた。
グリーン成長は、環境分野やより効率のよい技術への投資、または適切なインセンティブ制度を導入して経済成長を維持しながら天然資源の利用を抑え、自然界への影響を削減していこうというもので、2012年、リオデジャネイロで開かれた国連持続可能な開発会議から使われるようになり、今では国連持続可能開発目標の綱領の項目になっている。
リオ会議の後からいくつかの研究者グループが「グリーン成長」に関する実験調査を行ってきたが、どれもが成長と環境を切り離すことは可能ではないという調査結果になっている。
米国の外国専門雑誌「フォーリン・ポリシー」の記事によれば、ドイツの研究者が率いるチームは世界経済が現在の2~3%で成長を続けたら人間の天然資源の消費量は2012年の700億トンから2050年には1800億トンにもなると発表している。ちなみに持続可能なレベルは2000年の年間500億トンだと研究者らはいう。
研究者たちはさらに楽観的な前提、つまり世界の国々が効率的な資源利用における「ベストプラクティス」を採用した場合を調べたが、それでも2050年の資源消費量は930億トンと持続可能なレベルにはならず、また別の科学者たちが行った研究でも結論は「デカップリング」は不可能という結論となった。
天然資源を効率よく使っても物理的な限界があり、たとえ経済を教育や介護などのサービス中心にシフトしても建物や設備を作るための資源は無から作ることはできない。経済成長を追求する限り、資源の利用も促進するのである。
これまで人類は化石燃料や資源、水や熱帯雨林、きれいな海洋環境などのおかげで豊かな生活を享受してきた。資源や環境は人類にとって貴重な資本なのである。それらを食いつぶしてまで「経済成長」が重要なのかということを安倍首相や世界のリーダーたちは考える時に来ている。