10月初め、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会が韓国で開かれ、特別報告書が発表された。内容は、産業革命以前の水準から気温が1.5度上昇することによる影響と、地球全体での温室効果ガス排出経路に関するもので、IPCCの結論は「地球温暖化を抑えるためには社会の全局面における早急かつ広範な未曽有の変化が必要」というものであった。
地球温暖化は、すでに1.5度の3分の2に当たる約1度上昇の段階まで進行しており、現状のままだと早ければ2030年には1.5度上昇し、それはさらに上がり続けるだろうとIPCCは予測している。これを食い止めるためには緊急に大規模な行動が必要で、パリ協定で提出された2030年までの現状の各国の国別目標では気温上昇が3度になり、対策が遅れるほど達成は困難になるだろうとのことだ。
猛暑や洪水など激しい自然災害を経験した日本にとって、この報告書は真摯に受け止めるべきものであろう。日本は世界で5番目に多くの二酸化炭素を排出している。効果的かつ即効性のある政策を導入して、政府も国民も直ちに行動をとることが求められているが、現状はその逆だ。
2016年に開催された伊勢志摩サミットで議題の一つとなった気候変動問題において、温室効果ガスを減らす策としてG7諸国は2025年までに化石燃料への補助金を段階的に廃止することを約束した。
しかし英シンクタンク、海外開発研究所によれば、日本を含む先進国は毎年少なくとも1千億ドル(約11兆円)相当を石油や石炭の補助金として支払っているという。特に日本は石油や天然ガスの探査や生産に政府が多くの補助金を提供しており、2011年の福島第1原発事故の後も再生可能エネルギーより化石燃料に多く費やされているのが現状なのだ。
国家のエネルギー政策は広範かつ複雑である。エネルギーは国家安全保障の基本で、どの国の政府も莫大な補助金を化石燃料会社や電力会社に提供している。だからこそガソリン1リットルをペットボトルの水1リットルとほぼ同じ値段で買うことができるのだ。政府の補助金によりエネルギー価格が安ければ企業も個人も省エネ投資をする気にはなれないだろう。まして後発となる再生エネルギーは高く効率が悪いとなれば敬遠されビジネスとして成り立たなくなる。
しかし気候変動に直面する中で化石燃料に多額の税金が投入されているという事実をタブー視し続けることはできない。日本を含む先進国の経済は、多額の政府補助金によって安いと錯覚されるエネルギーを大量に使用する構造で成り立っているのである。もう一つの重要な安全保障である食料も、エネルギーを大量に必要とする長距離輸送によって運ばれてくる。
政府は憲法を改正して内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する、すなわち軍隊の創設が安全保障の唯一最大の課題であるかのようにふるまっているが、今直面している安全保障としてのエネルギーと環境問題に真剣に取り組まなければ、我々は逃げ場のない地球規模の破滅への道に突入することになる。