No. 1236 不況に拍車の消費税増税

安倍首相が10月の臨時閣議で、2019年10月に消費税を10%に引き上げることを表明したという。

財政逼迫を改善するために増税はやむを得ないというのがその理由である。しかし元々消費税の増税は法人税の減税とセットで行われ、80年代半ばには43.3%だった法人税は2018年度には23.4%にまで引き下げられた。従って消費税が導入された翌年1990年の税収は60.1兆円であったが、その後消費税が3%から8%まで増税されたにもかかわらず、2018年の税収は59.1兆円と28年間ほとんど変わっていないのである。

法人税と、高額所得者を中心とした所得税が減税され、消費税は大企業と富裕層を減税して減った分の穴埋めで消えたのであり、財政逼迫というのなら法人税や所得税を消費税がなかった時代の税率に戻すのが筋であろう。

総務省の家計調査では消費支出も横ばいか減少という状況だ。失業率が低いとはいえ増えている雇用のほとんどは非正規やパートで、日本の消費の大部分を担っているのはこうした中流層、低所得層なのである。その賃金水準では消費税増税により消費はさらに冷え込み、景気の回復などあり得ない。

法人税減税と富裕層の所得税減税で消費が増え、社会全体の景気が良くなるという主張そのものが誤りだったのに、ここでまた消費税を増税することの愚かさはエコノミストでなくても分かるはずである。

財務省はホームページで、所得税や法人税の引き上げは現役世代に負担が集中するので、高齢者を含めて国民全体で広く負担する消費税が、少子高齢化が進む社会における社会保障の財源にふさわしい、と理由づけている。

しかし景気がさらに悪化すれば個人消費が落ち込むことは確実だ。政府も消費税増税が景気に打撃を与えるという認識はあるらしく、クレジットカードや電子マネーで購入した客へ「税金を原資」に価格の2%分のポイントを付け、ポイントは代金支払いや値引きに使えるという首をかしげたくなるような対策を考えているという。そんな手間とお金をかけるなら2%の増税をやめればよい。

とは言うものの、来年は統一地方選挙、参院議員選挙がある。去る9月の自民党総裁選挙では安倍首相が石破茂氏に「圧勝」したとされるが、地方を見れば、全体の票数の45%を石破氏が獲得した。また沖縄県知事選挙では菅義偉官房長官が選挙応援に駆け付けたものの、辺野古新基地建設反対派の玉城デニー氏の大勝に終わり、その後の那覇市長選挙でも自民党が推薦する候補を破り新基地反対を掲げた現職の城間幹子氏が圧勝している。選挙の前になって安倍首相が消費税増税を再び先送りすることを発表する可能性もないとは言えない。

10月に入り株式市場は米中の貿易戦争や米国の長期金利の上昇によって景気後退が見え始めてきた。このような世界的に不安定な時期に、不況に拍車をかけるような消費税の増税など、いずれにしても日本政府の政策は現実を全く直視していないということだ。