10月25日、安倍首相は中国を公式訪問した。日本の首相が単独で中国を訪れたのは7年ぶりだという。
今年は日中平和友好条約締結40周年、記念日は10月23日だったが、その日、中国では広東省珠海と香港、マカオを結ぶ全長55キロという世界最長の海上橋が開通し、習主席も参加して開通式が行われた。これによりIT企業などが集まる広東省と、国際金融センターの香港、カジノのあるマカオを一体化させるという中国の国家戦略、「ビッグベイエリア構想」がさらに加速したのである。
これまで安倍首相は尖閣諸島や南シナ海問題を取り上げて中国脅威論を打ち出し、つい最近も東シナ海でガス田開発を進める中国を敵視する発言をしてきた。それが今回の訪中で、李首相、習国家主席とそれぞれ会談し、「競争から協調へ」「東シナ海を平和、友好、協力の海にしていくことについて率直に意見交換を行いたい」と語ったのである。
また新技術や知的財産分野で両国の協力を促進する「日中イノベーション協力対話」の創設や、自由で公正な貿易関係において日中関係を発展させることでも合意したという。
米国トランプ大統領は中国だけでなく長年の同盟国である日本にも関税をかけると脅している。その米国と、周辺国と共に成長の果実を共有しようと経済圏を構築する中国との間で、たとえトランプ大統領から嫌われても安倍首相が中国に歩み寄ったのは当然かもしれない。お互いの通貨を融通し合う通貨スワップ(交換)協定を再開すれば日本企業の対中ビジネスへの参入も容易となる。中国の改革や経済開放、中国の広域経済圏構想「一帯一路」へ日本が積極的に参加することがこれで可能となるのである。
日本の同盟国米国がますます閉鎖的になる一方で、中国はGDPにおいても米国と並びつつある。購買力平価ではすでに米国を上回っている。コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパースが2017年に発表した2050年までの世界経済の見通しを分析したリポートによれば、2050年の世界のGDP予想ランキングにおいて1位は中国、2位はインド、3位アメリカで日本は8位に転落するとみられている。
日本は産業空洞化が進み、今世界で担っている役割は他国に奪われてしまうということだ。長期的な経済モデルを立て直さなければ暗たんとする日本の将来見通しの中で、衰退する米国ではなく、成長する中国と新たな関係を構築することは日本にとっては希望である。
中国と日本が経済的に相互に利する関係を確実に構築していくには、まだ多くの作業が残されている。さらに、今後の日米関係や、国家資本主義である中国とのビジネスに対する懸念の声も多くある。しかしそれでも、米国が敵とみなしている中国と、米国の友人である日本が、今ここで米国に対抗するか のように協調体制に入ったことは、時代が大きな転換期にあることを示している。