No. 1241 激化する米中貿易問題

米国と中国の間の貿易問題は相互に追加関税をかけることから激化し、昨年12 月には中国の巨大通信企業ファーウェイの副会長が米当局の要請でカナダで逮捕されるという事態にまで発展した。

「アメリカファースト」を掲げたトランプ大統領が当初から強調していた政策は製造業の米国回帰と米国国内における雇用の創出であり、そのやり玉に挙がっていたのが中国など海外で製造することで莫大な利益を抱え、その利益を米国外に蓄積している多国籍企業である。

アップルのような企業の工場を中国から米国に移転させることがトランプ氏のゴールでもあったが事はそんなに単純ではない。たとえば世界のiPhoneの約半分が中国鄭州の工場で作られ、アップルだけでなくデルやヒューレット・パッカード、サムスンなど、さまざまなIT企業が中国の工場に製造を発注している。もしそのiPhoneを米国で生産すれば価格は大幅に高騰し、競争力を失うことは間違いないだろう。

安価な労働者を使い中国を世界の工場として利益を上げてきたのは米国でありながら、中国の経済力、軍事力が脅威となったことで今、米国政府はその中国を強く批判し始めた。ファーウェイの副会長が逮捕される以前から米国政府は米国人に中国のスマートフォンを買わないよう促していた。その理由はファーウェイが中国政府と密接に結びついており、情報が危険にさらされるからというものだ。次世代通信規格(5G)の時代に、米国とそのアングロサクソン同盟国は中国企業を何としてでも排除する必要があったのである。

米国はもはやスマートフォンを製造しておらず中国への依存はむしろ高まっている。スマートフォンだけでなく、さまざまな無線技術においても中国が世界のリーダーとなっている現実がある。5G技術においてすでに中国が先行しているため後発の米国はこの新しい技術分野においてシェアを取ることはできそうもない。だからこそ米国は同盟国に対してファーウェイ(ともう一社ZTE)の製品を排除するよう要請したのだ。日本も米国の要請に従い、セキュリティーに懸念があるとして政府調達から排除する方針を固めたという。

しかしセキュリティーを言うなら、米国から亡命したスノーデン氏が米通信サービス業者ベライゾンが米国家安全保障局の要求に応じて顧客の通話履歴などを提供していたことを暴露し、メルケル首相の携帯電話も盗聴していたとして2014年にドイツ政府がベライゾンとの契約を破棄した事実も忘れないでおいたほうがいい。

ファーウェイはアップルを抜きサムスンに次ぐ世界第2位のスマートフォン・メーカーである。2005年にファーウェイ・ジャパンを設立、2011年には中国企業で初めて日本経団連にも加入した。ソフトバンクの携帯基地局の中核装置にはファーウェイ製の無線機が採用され、ネットワークに関してNTTドコモなどとも実証実験を共同で行っていた。これらの企業が米国に従ってファーウェイ排除に動けば、その経済的損失は計り知れない。サイバー戦争はすでに始まっていると言える。