米国政府機関の一部閉鎖が長期化する中、株安をはじめとする世界的な景気減速も背景に年明けとともに急速に円高が進んだ。
円高に対して政府が為替介入をすれば、それこそ日本はトランプ大統領が言う「為替操作国」となる。「アベノミクス」が大胆な金融緩和で市場の資金供給量を増やし、円安に誘導して余剰資金で株価を上げるという「円安・株高」政策であったことを考えると、突然の円高は日米貿易協議に臨む米政府の厳しい姿勢の表れかもしれない。
昨年12月21日、米国通商代表部(USTR)は今年から交渉が始まる「日米貿易協定」について、交渉目的の要約と題された文書を公表した(米国政府のウェブサイトに掲載され、誰でも見ることができる)。日本政府はメディアを通じて日米物品貿易協定(TAG)という言葉を多用してきたが、これは安倍首相が国会で、米国と合意したのは自由貿易協定(FTA)ではなく物品の関税引き下げに限ったTAGであると言い続けてきたからであろう。
しかし米国政府が公表した文書を見ればFTAそのものであり、物品以外に、金融、知的財産、医薬品、労働や環境など22分野で交渉するとある。円高に関連しては、日本が為替操作をしないことを確かにする(Ensure)と書かれており、米国からすれば「アベノミクス」は「不当な競争上の優位性を獲得するための為替操作」に当たるだろう。
従って、たとえ揺れ戻しがあったとしても円高は続き、米国の政策を考えると極端な円高に向かうこともあり得る。なぜならこれまでのトランプ大統領の発言からして、目的は日米貿易の赤字解消にあり、米国に不利益なことは大胆に変えていくと思われるからだ。米中貿易戦争の次のターゲットは日本なのである。
貿易不均衡を是正するために日本が米国製の自動車や牛肉を大量に輸入するには限界があるし、米国製の軍事兵器を大量に購入し続けるのも無理がある。そうなるとあとは為替で調整するしかない。このために年明けから始まった調整が円高であり、貿易収支が米国の納得のいくところまで円高が進む可能性は大きい。
日本の株式を買い支えているのが日銀であることはもはや周知の事実で、上場企業の約4割で上位10位以内の大株主は日銀だという。暮れの大納会で、日銀は715億円も上場投資信託(ETF)を買い入れ、昨年の日銀によるETFの買い入れ額は6兆5040億円にも上った。しかし円高同様に流れが変わって日銀が売り逃げを始めれば株安は避けられない。
政府は昨年12月の月例経済報告で、第2次安倍政権が「アベノミクス」を打ち出した2012年12月から始まった景気拡大が73カ月となり「戦後最長に並んだ可能性が高い」との見解を表明した。日本経済は米国との貿易交渉にかかっているが、これまでも日本政府が米国からの「通達」に従ってきたことを考えると平成の年号とともに景気拡大もアベノミクスも終焉を迎える可能性は高いだろう。