国民皆保険とは全ての国民が何らかの医療保険制度に加入することで、病気やけがをした場合に適切な医療を受けられる制度で、日本がこの体制を整えて60 年になる。
先進国で唯一、国民皆保険制度のない国が米国であり、5千万人以上の米国人は民間の医療保険に入れない無保険者である。このため米国の自己破産原因の1位は医療費(疾病による失業含む)だという。この解決を公約にしていた前オバマ大統領は2010年、通称「オバマケア法」と呼ばれる国民皆保険に近い法律を作り、米国の保険加入者は3千万人以上増えた。しかしオバマケアは公的保険ではなく、個人が民間の医療保険を購入する枠組みであり、加入していても治療費を払えず自己破産する人が後を絶たないのが現状である。
その理由は医療費があまりにも高額なためだ。日本は政府がある程度一定の基準で医療費を決めているが、米国政府は薬価に上限を設けることができず、製薬会社は自由に価格を設定できる。政府が医療費の基準に介入できないため、米国の医療費はGDPの17.2%と世界で最も高い。これも保険業界や製薬業界が莫大
な政治献金を行い、ロビイストを使って法案や制度を自分たちの有利な方向にしてきたからである。
さらに、日本の医療費は約40兆円、GDPの10.7%で平均寿命は世界一だが、医療費が高くても米国の平均寿命は決して高くない。なぜなら最先端の高度医療は一部の富裕層のためのものであって一般国民のものではないからだ。
米国に公的な医療保険制度ができなかった理由は、米医師会や保険業界からの反対に加え、米国民が政府の介入を社会主義的だと嫌悪したことにある。16世紀、イギリス国教会から弾圧を受けた清教徒は信仰の自由を求めて米国に渡り、政府介入のない自分たちの理想である「自由」の国として米国を建国した。自分たちの生き方について政府の指示は受けたくないのだ。トランプ大統領は当初からオバマケアの撤廃を主張し、廃止に向けた法案の成立に何度も失敗してきた。そして再びその廃止に挑み、共和党が新たにもっといいプランを提示すると表明したのである。
新プランは公的、民間負担を合わせたものを原資とする制度を検討しているというが、トランプ大統領が「決して米国は社会主義国家にならない」と宣言していることから、自由の国である米国では「ゆりかごから墓場まで」をスローガンとするヨーロッパのような社会保障制度を提供することはないだろう。
日本政府は少子高齢化などを理由に「痛みを伴う」社会保障改革を進めようとしているが、税収が減った最大の原因は富裕層や大企業への減税である。従って社会保障の財源は消費税増税ではなく、高所得者や法人税の増税、富裕層の所得の多くを占める株の配当や譲渡益への課税などから確保すべきだ。国民皆保険制度を壊して米国のような国にする愚を日本はおかしてはならない。