「日本の製品は世界一」と日本が自負していた1980年代、貿易黒字を拡大し続ける日本に米国はスーパー301条を発動し、輸入関税の大幅引き上げを迫った。その頃中国は人件費の安さから「世界の工場」と呼ばれ、多くの国の製造業が進出していた。
今ではその中国が日本に進出し、業績の悪化した日本企業を買収している。しかしそれでも小型化技術や安全性能では「日本が優れている」「日本製の部品がなければできない」といった日本の優位性を誇る声はやまない。例えばリニア中央新幹線は2027年に開通予定だが、中国ではドイツの技術を導入したリニアモーターカーが2004年から営業を開始している。上海空港と郊外の地下鉄駅の間、約30キロを最高速度430キロ、8分弱で結ぶ世界唯一のリニアは、最高速度580キロを誇る日本の超電導技術とは雲泥の差があるということらしい。
日本よりも中国の台頭を認めることができないのが米国である。人類初の月面着陸からインターネットまで、世界をリードしてきた領域で、40年前に「第三世界」だった中国が競争相手になった。中国は宇宙ステーションを運用し、昨年からは独自の衛星測位システムで世界中に高精度のナビゲーションサービスを提供している。人工衛星の打ち上げ数も米国を上回り、1月には無人探査機が世界で初めて月の裏側へ着陸した。一方、予算のない米国はアポロ計画以後、月探査を行っていない。
増え続けるホームレス、教育の劣化、リニアどころか老朽化する鉄道、経済から予算を取り続ける軍隊と、もはや米国に世界をけん引する力はない。先進技術で対抗する代わりに制裁や同盟国に中国製品を使わないよう圧力をかけている。特に5G(第5世代移動通信システム)における覇権争いで、トランプ政権は日本を含む同盟国に中国の通信大手ファーウェイを市場から排除するよう圧力をかけたが、5G技術は携帯電話の改善だけではない。ネットワーク速度は4Gの10倍、タイムラグは30マイクロ秒以下という利点から、中国ではすでに5Gを使った遠隔手術が何例も行われている。4月には広東省で患者から400キロ離れた場所に複数の心臓外科医が集まり、大型画面を通して5Gを使ったリアルタイム遠隔指示による心臓内視鏡手術が行われ、成功したという。
中国を讃えるつもりは毛頭ないが、重要な技術において中国が世界を先行しているという事実から目をそらしてはいけない。日本政府は4月に首相特使として二階俊博自民党幹事長を送るなど中国との関係構築に努めている模様である。優れた技術でなく制裁という手段を使うしかない米国に代わり、中国の技術が世界に普及するならばその国と仲良くすることが日本の国益になることを政府は理解しているのであろう。残る課題は日本がトランプ政権の圧力にどう対応するかである。