アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏は、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏を抜いて世界長者番付1位となった。資産額は14兆円を超えるという。
1995年にオンライン書店として始まったアマゾンはITバブル崩壊後も生き残り、電子商取引における大手企業に成長した。ビジネスを支えるIT技術をもとにクラウドサービスも提供し、大きな利益を上げている。
大富豪のベゾス氏は宇宙への進出も本気で考えている。2000年にはブルーオリジンという航空宇宙企業を設立し、宇宙ロケットの開発を始めた。今年5月初め、ベゾス氏は「ブルームーン」という名称の月着陸船を公開し、2024年までに月面着陸を目指す計画を発表した。同じく大富豪の電気自動車テスラを設立したイーロン・マスク氏も、Space X社という宇宙関連企業を作っているが、マスク氏の目標は月ではなく火星への有人飛行で、将来的には火星に移住するという壮大なプランを持っている。大富豪になると野望は地球から宇宙へと広がるようだ。
ベゾス氏は月着陸船だけでなく新たに人類の生活圏を宇宙に作る計画も発表した。今世紀末には世界人口は100億人を超すと予測されるが、地球の資源は有限である。そこで生活空間を宇宙に広げ、巨大な宇宙ステーションを作って人類を移して生活させ、地球の自然環境を汚すような重工業は宇宙ステーションの中で行うようにするべきだという。
地球が問題を抱えていることは明らかである。気候変動や天然資源の枯渇、表土と森林が失われて水や食料の不足も懸念されている。このままだと環境が破壊されてしまうので、「美しい地球を守る」ために一部の人類を宇宙に移そうというわけだ。地球以外の惑星に人類が定住することは非現実的でコスト的にも不可能だが、巨大な円筒形の宇宙ステーションを構築し、その中に人類が居住できる空間を設けて回転させることで人工的に重力を作るほうが現実的であるという。
SF映画を彷彿させる考えだが、「地球を守るため」に私財を投じてプロジェクトを推進するベゾス氏は本気のようだ。環境破壊が悪であるならば、全ての個々人や企業にとって資源やエネルギーの抑制こそが美徳であると私は考えるが、それではもうからない。だから大富豪たちは破壊の場を宇宙に広げることで対応しようとしているとしか思えない。
さらに私財を投入して新たな工業地帯となる宇宙ステーションを作るが、ベゾス氏自身はそこに住むことはない。宇宙に浮かぶ円筒形のシリンダーに追いやられるのはおそらく一般労働者たちで、大富豪の家はこの最も美しい星、地球であり続けるからだ。そんな不公平なことは国家が許さないと思うかもしれないが、貧富の格差が大きくなりすぎた米国のような金権主義国家では、多くの人が犠牲になろうと一人の野望をかなえることは可能なのである。