No. 1256 非常事態の気候、直視を

今年5月末、北海道の佐呂間で39.5度を記録するなど全国各地で猛暑となった。春の運動会にもかかわらず熱中症対策に追われる小学校などがニュースになっていたが、2020年7月末から開かれる東京五輪を考えると選手や観客の健康被害が今から心配になる。

その時期の東京は温度も湿度も高く、35度を超えることも珍しくない。猛暑日が増え、毎年「記録的な暑さ」となっているがそれでも東京に五輪を誘致したのは日本政府が気候変動について信じられないほど楽観的であるからだろう。

これまでも地球は温暖化と寒冷化を繰り返してきたとされるが、近年は世界各地で気候変動による影響が表れ始め、環境や人々の生活に大きな問題を引き起こしている。このまま経済活動を続けると100年後には地球の気温は4度前後上昇すると予測される。

この平均気温の上昇を産業革命以前(1850年~1900年)と比べて1.5度以下に抑えることを目標に2015年に国連で採択されたのが「パリ協定」である。そのためには化石燃料の使用を大幅に削減しなければならず、1人当たりのCO2排出量の多い先進国は、資源、電力の消費削減、経済成長をあきらめ快適な生活も我慢することによってしか、気候上昇を抑えることは不可能である。

世界の平均気温は産業革命以前よりすでに0.8度近く上がっているが、1.5度以下に抑えるという目標にはフィードバックループの要因が含まれていない。シベリアなどの永久凍土層の氷が溶け、そこに閉じ込められている二酸化炭素や、温暖化ガスであるメタンも大気中に出てくるといった悪循環がさらに温暖化を進めるのだ。

気温が上がれば大気の飽和蒸気圧が高くなり水蒸気の量が増える。それにつれて大気のエネルギーが増し、気象変動の幅が拡大して温和であった気候が苛烈になり、暴風、記録的な降水、低日照などをもたらす。温暖化という表現はゆっくりと気温が上がるイメージだが、台風やハリケーンの大型化、一方で土地の砂漠化、虫や両生類の激減といった環境破壊へと続くのである。

地球の表面の70%は水で覆われている。命を育み人類の文明を支えてきたその海は温暖化の原因である二酸化炭素を吸収して大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑え、また熱エネルギーも吸収し気温上昇を抑えてきた。それが海そのものを温暖化させ、海水温の上昇により海水が膨張して海面水位の上昇はキリバスだけでなく日本にも影響を及ぼす可能性がある。

日本列島は昨年も一昨年も深刻な豪雨に見舞われた。海面水温が高いために大量の水蒸気が梅雨前線に流れ込んだことも一因として挙げられ、猛暑や台風も同様の要因で発生する。欧米や豪州では気候変動の危機的状況を市民に知らせ、対策を推進するために「気候非常事態宣言」をする自治体が増えているという。日本の自治体ではまだないようだが、猛暑または自然災害が続けば、気候が非常事態にあるという現実を無視し続けることは難しくなるだろう。