No. 1260 タンカー攻撃事件

6月にイランを訪問した安倍首相がロウハニ大統領やハメネイ師と会談した日、ホルムズ海峡付近では日本企業が所有するタンカーが攻撃を受ける事件が起きた。すぐに米国はイランの関与をほのめかしたが、証拠は示されなかった。

ボルトン米大統領補佐官は、攻撃したのはイランの機雷だと発表したが、タンカーの乗組員は機雷や魚雷ではなく飛来物だったと証言した。その後イランの上空を飛ぶ米軍のドローン(小型無人機)をイラン革命防衛隊が撃墜したとして再び中東に緊張が走ったが、米国がイランを報復攻撃することはなかった。攻撃を中止させたのはトランプ大統領だったという。

ブルームバーグの報道によれば、トランプ大統領は米軍司令官に、攻撃をすれば何人の死者が出るかと尋ねると150人と言われたため、ドローン撃墜に対する報復には「釣り合わない」と、10分前に攻撃を撤回させたとツイッターで明らかにしたという。かつてのイラク大量破壊兵器のように、証拠もないまま攻撃をして戦争になるのを避けられたのは幸いだった。

イランに圧力をかければより大きな反発が返ってくる。イランは以前から、米国によるイラン産原油の輸入停止に各国が従うならホルムズ海峡を封鎖すると警告していた。世界の石油消費量の2割以上がホルムズ海峡を通過していることを考えると、わざわざ石油タンカーを攻撃するまでもなく海峡封鎖で米国経済に打撃を与えることができる。原油の8割以上を中東から輸入している日本にも大きな影響が及ぶ。

それは世界経済の崩壊にもつながる。原油の流れが止まれば、原油価格は1バレル60ドルが200ドル、300ドルと高騰し、実体経済だけでなくデリバティブ市場に及ぶ影響は計り知れない。世界の金融機関が取り扱う原油デリバティブの想定元本は数兆ドルにもなっており、複雑に絡み合うデリバティブで一つの銀行が失敗すればドミノ倒しのように金融システムの崩壊につながるからだ。

トランプ大統領が攻撃を止めたのは、イランが反撃すればイスラエル、サウジアラビアにも戦火が広がり中東が戦場になることがわかっていたからだろう。大統領選の時からトランプ氏は、ブッシュ政権時代にネオコンが主導したアフガニスタンとイラクへの侵攻を非難していた。

クリントン氏が大統領になったら米国は中東戦争を起こすことを心配した人々がトランプ氏を選んだのであり、中東戦争が勃発すれば2020年の再選は難しくなる。従って次の大統領選まで、ボルトン氏のような戦争屋が偽旗作戦を起こしたくてもトランプ大統領がイランに攻撃をかける可能性は少ないといえる。

しかしその逆もあり得る。中東を戦場にすれば原油は高騰し米国経済は崩壊する。その全ての責任をトランプ大統領に押し付けることで再選はなくなり、戦争経済を大きくして経済を復活させるシナリオを力ずくで戦争屋が遂行することだ。歴史を通して景気を上げるには戦争特需が一番手っ取り早い方法なのである。