8月初め、米トランプ政権が中国を「為替操作国」に指定したのを受け、中国の中央銀行である中国人民銀行は、人民元相場の下落は操作ではなく、「世界の経済情勢の変化と、貿易摩擦の激化で生じた需要と為替市場の変動を反映したもの」だとして、米国の単独主義と保護主義を批判した。
為替操作国とは、対米貿易を有利にするために為替介入し、為替相場を不当に操作しているとして米国が認定した国のことである。為替操作国に認定された国は、米国と2国間協議が行われ、米国が通貨の切り上げを要求したり、必要に応じて関税による制裁を行うという。
これに対して中国は、金融市場の混乱の引き金を引くおそれがあり、最終的には自分(米国)に跳ね返ってくると警告した。その一つは米国債の売却である。中国は1兆ドルを超す米国債を保有する債権者であり、これまでも貿易戦争の報復手段として示唆されてきたが、大量売却がなされたことはなかった。
保護貿易主義をとる米国と、多国間貿易体制をとる中国との貿易摩擦は、世界が大きく注目している問題でもある。日本は米国の同盟国だが、中国は日本の最大の貿易相手国でもある。緊密につながる世界経済の中で、中国は多くの国にとって重要な協力パートナーなのだ。米国が中国を攻撃するのは、巨額の対中貿易赤字が原因で、その額は4兆円を超える。
トランプ政権の行動は、一つには中国への脅威がある。欧米メディアはあまり報じないが、中国は飛躍的な進歩を遂げている。中国政府の補助金によって造られた高速鉄道はすべての主要都市を結び、街は清潔で公園には運動器具がおかれ、美術館、大学や医療センターが次々と新設されている。中国ではすべてが政府と共産党によって計画され、民間部門はそれに従って動いている。民間部門が政府の政策を決める米国と対極の国だ。
中国の国民1人当たりのGDPは欧米先進国のそれを下回るが、クレディ・スイスのリポートによれば、資産からみると北米は富裕層と貧困層が多く、富の偏在が顕著である。一方の中国は中間層が厚く、貧困層は少ない。政府が環境を整えることで、国全体で豊かになってきたからだ。「中国の特色ある社会主義思想」を掲げ、欧米のように短期的な利益を狙い常に経済成長を必要とする資本主義と違い、長期的な視野のもとで国家運営を行うことが中国では可能なのである。
隣国でありながら、日本人も中国の現状を知らず、中国の社会主義プロジェクトが未完成の段階だった20年前と同じく、貧困と公害の国だと思っている人もいるかもしれない。この20年間で、戦後、年平均10%以上の経済成長を達成し、生活水準を改善した日本以上の変化を遂げたのが中国である。日本は1986年の「前川レポート」で米国の要求に応え、規制緩和を推進し、経済成長は終わったが、米国とのやりとりを見る限り、中国が日本のように米国の要求に簡単に応じないことだけは確かである。