近年、森や水田の多い地方に行くと、太陽光発電のソーラーパネルが目につく。太陽光発電を設置すれば、余剰電力買い取り制度により収入を得られるために急増したのであろう。
2009年11月から再生可能エネルギーの買い取り制度が始まり、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束した。住宅用太陽光発電の買い取り期間は10年で、今年11月で買い取り義務が終了する。そのためここにきてさまざまな企業が電気の買い取りサービスに参入というニュースが相次いでいる。
太陽光発電を導入している家庭は、自家消費分の電力以外を小売電気事業者と買い取り契約を行うことができるし、蓄電池の技術も急速に進化しているため、その導入で自家消費率を上げるという選択肢もある。これにより電気の自家消費が進み、再生可能エネルギーを使い地域で作った電気を使う「地産地消」も進むかもしれない。
再生可能エネルギーを手軽に使える時代に入ったのは日本だけではない。世界最大の発電量を誇る中国では、多くの都市で産業用および商用の太陽光発電が供給する電力の価格が、送電網から供給される電力と同じか、安くなったという。高い需要と発電能力の急速な発展により、昨年の世界の発電量増加分の60%を占めた中国は、太陽光発電の導入量も世界1位となった。
中国政府も買い取り制度をやめたが、一方で太陽光発電を拡大し、電力供給の一端を担うために「グリッドパリティ」への転換を奨励した。送電網(グリッド)と同等(パリティ)、つまり再生可能エネルギーの発電コストが既存の電力コストと同等になることである。
中国の広大な国土には、日射条件が良く投資や市場環境が良好な地域がいくつもあり、火力発電に対するグリッドパリティの実現条件を備えていた。また太陽光モジュールの生産において中国メーカーは世界最大のシェアを誇り、上位10社のうち8社が中国メーカーである。世界最大の石炭生産国である中国は、2015年には電力の72%は石炭による火力発電だった。そのためPM2.5など大気汚染が深刻な問題になっていた。それに対処するため再生可能エネルギーに力を入れることにしたのである。
貧困撲滅、低所得者層向け住宅の建設、医療保険制度、高速鉄道、再生可能エネルギーへの投資と、中国政府の政策は資本主義の米国政府とは真逆だが、この社会主義的思想に基づく政治経済の下で中国は急速に台頭した。英金融大手スタンダード・チャータードの調査では、購買力平価と名目GDPの組み合わせで、2020年には中国は米国を抜いて世界1位の経済大国になるとしている。だからこそ米国は中国を「独裁国家」と呼び、繁栄を許すことができず米中貿易摩擦が激化している。
しかし中国のように中央政府が統制する計画経済ではない米国では、トランプ大統領は米国企業に中国撤退を強制できないし、企業も、成長を続ける中国市場を手放すことは拒むだろう。米中貿易摩擦で米国は再び偉大になることはないし、中国だけでなく、米国企業と消費者の利益も傷つける。もちろん両国だけでなく日本、そして世界にも影響が及んでいるのだ。