9月、ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットに出席した小泉進次郎環境 大臣が「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールでセクシーに」と発言し たと話題になったが、もう一人注目を浴びたのは16歳のグレタ・トゥンベリさん の怒りのスピーチだった。
スウェーデンの高校生環境活動家トゥンベリさんは、今年のダボス会議でも世界 政財界に向け気候変動対策を訴える演説をして注目を浴びた。日本でも9月20 日、国連気候行動サミットを前に東京や大阪でデモ行進が行われたが、日本では 学生たちが授業をボイコットするストライキには広がっていない。
気候サミットにはトランプ大統領も短時間ながらも出席したが、トランプ大統領 は地球温暖化が人為的な原因により起きているとする科学界の結論に疑念を示し ている。たしかに温暖化は「人為的ではない」という報告書もある。しかしたと え自然現象だとしても、ヨーロッパではモンブランの氷河の一部が猛暑の影響で 崩落の危機に直面し、南米のアマゾンでは森林火災が深刻だ。
本来、熱帯雨林であるアマゾンでは火災はもっと早く鎮静化するはずが、人間が 森林を伐採して農地開発を行ったために乾燥が進み、火災が広がった。温暖化で アマゾン川流域の気温も上がり、二酸化炭素を吸収して酸素を発生する熱帯森林 の減少はそれをさらに加速させることになる。
今年の6月、イギリス王立地理学会は米軍が気候変動の重大な原因の一つである という報告書を発表した。米軍の二酸化炭素排出量は、活動範囲が世界的規模で あることから膨大なものとなり、それを国別の排出量と比較すると47位とス ウェーデンよりも多い。
2017年、米軍は1日に26万9230バレルの石油を購入し、それを燃やし2万5千キロ トン以上の二酸化炭素を排出しながら世界各所で爆撃を続けている。トゥンベリ さんは、気候変動により大量絶滅が始まっている、各国首脳たちは温室効果ガス 排出問題に取り組まず、「自分の夢を奪った」と語ったが、米軍は今日も、アフ ガニスタン、リビア、シリア、イエメンで、現実に人々の命を奪っている。
活動スポンサーはいないというトゥンベリさんの、温暖化対策をしない大人たち の行動は若者への裏切り行為だという怒りは純粋なものなのだろう。しかし世界 は、気候だけでなく大きな社会変動の中にある。貧困によって失われる命が格段 に減少したのも、気候変動をもたらす結果となった安価なエネルギーによって提 供される技術革新によるものだ。
環境のために飛行機に乗らないというトゥンベリさんはヨーロッパからニュー ヨークまで炭素排出量ゼロのヨットで来たという。しかし米軍から爆撃を受けて いる国や開発途上の国の人々には飛行機かヨットかという選択肢はない。首脳た ちのやっていることが若者への裏切り行為であることは間違いないが、その誠実 な怒りは社会を破壊し、人を殺傷し、貧困をもたらし、二酸化炭素を放出する戦 争に向けられるべきである。