11月にバンコクで開かれたASEANサミットで、安倍首相はASEAN諸国のインフラ開発や女性活躍を支えるために、国際協力機構への出資を今後倍増させることを表明したという。
国内では、消費税率アップ後に発表された2019年度上半期(4~9月)の一般会計税収が16兆6966億円と、前年同期比で4.6%も減少した。貧困問題や相次ぐ自然災害で求められる援助なども後を絶たない中で、相変わらず安倍首相は海外に大盤振る舞いである。
ASEANサミットにはトランプ大統領は過去2年に次ぎ今年も欠席だった。昨年はペンス副大統領を送ったが、今回は派遣団のトップが大統領補佐官だったことで「アジア軽視だ」と批判が起きたのも無理はない。いくらアジアにコミットしていると言葉で言っても本音は行動に表れる。米国を相手に貿易黒字を膨らませたとしてアジアの国々を非難し、トランプ大統領はTPPの代わりに二国間取引を求め、日本と日米貿易協定を締結した。
一国行動主義を貫く米国に対して、ASEANサミットで注目されたのは多国間貿易体制の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)である。中国が主導するRCEPが実現すれば世界人口の約半分を占める34億人、世界GDPの3割に当たる20兆ドル、世界の貿易総額の約3割に当たる10兆ドルを占める広域経済圏がつくられるのだ。土壇場になって、国内の製造者が打撃を受けるとしてインドが不参加を表明したため、ASEAN10カ国に中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを加えた15カ国による東アジア21億人を抱合する経済圏ができることになる。
ここで重要なのは中国が主導で、米国が含まれないという点であろう。中国への貿易制裁にも見られる米国の強引な一国行動主義は、米国の世界への影響力も弱めている。一方中国は、アジアだけでなく、中東、アフリカへもシルクロード構想を拡大することで影響力を強め、アジア圏では中国と日本、そして韓国を加えると3国で世界GDPの20%を占めることになる。
米国は新世代通信技術において中国のファーウェイの使用を禁止する措置をとったが、これは結果的に米国の国益を損ねる結果となった。日本を含む欧州などの同盟国にファーウェイを使わないよう圧力をかけたが、米国はそれに代わる5Gを提供することができないからである。12月には中国で日中韓サミットが開催され、日本は韓国との間に問題を抱えてはいるが、日中韓での協力は日本経済にとっても必要不可欠なものとなる。
もちろんそこに立ちはだかるのは米国の存在だ。11月、自衛隊は鹿児島県の種子島で、中国の攻撃から島を守る演習を報道公開した。米国覇権の保護の元では常に仮想敵国が必要なのである。そのためには南西諸島を次の戦場にしようとしているのかもしれないが、衰退をたどる戦争中毒の帝国ではなく、アジアの隣国との協調こそが停滞する日本経済の復活をもたらすはずである。そう考えれば安倍首相のASEAN諸国への出資増額も生きてくるだろう。
(追記:インドが7年間遅らせてきた中国主導の「RCEP」は、ようやくインド抜きで進展する運びとなったが、ここにきて日本政府が「インド抜きでは署名しない」と表明した。日本政府はここでも米国の圧力に屈したのであろうか。)