かつては日本人移民も受け入れていた南米中央部のボリビアで11月、クーデターが起き、モラレス大統領はメキシコに亡命した。
アンデス高地と温暖な渓谷地帯、観光資源として地面が反射して空を映し出す絶景のウユニ塩湖などがあるボリビアは鉱山と共に発展し、錫、亜鉛、鉛、天然ガスなどさまざまな資源を海外に輸出している。特にリチウムは、電気自動車などで使用される電池に必要不可欠な材料で、ウユニ塩湖には世界最大のリチウム埋蔵量があると言われている。
2005年に大統領に当選したモラレス氏は、ボリビアでは初めての先住民出身大統領で、南米における反グローバル新自由主義の代表的政治家でもあった。14年間のモラレス政権の間に国民所得を向上させ、ボリビアの中間層の割合は2005年の35%から2017年には58%へ上昇し、IMFデータによるGDP成長率は4.8%と持続的な経済成長を見せた。
近年はリチウム産業化による経済発展を目指し、リチウム抽出には高度な技術が必要であることから各国に協力を呼び掛けていた。世界のリチウム生産の約半分と電池生産能力の6割を支配する中国もボリビア政府への協力を表明し、今年2月には23億ドルのリチウムプロジェクトが発足し、ボリビアが51%、中国が49%の持ち分でのジョイントベンチャー契約が進んでいた矢先の政権転覆である。
中国はモラレス政権誕生以来ボリビアを積極的に支援してきた。モラレス氏は反米主義を鮮明にし、大統領就任以来、国連総会では米国や多国籍企業を批判する演説をしていた。中国は発展途上国に対する宇宙開発分野での支援に力を入れており、これまでも同じく反米のベネズエラのために衛星を打ち上げ、ボリビアにも2013年に衛星を打ち上げて放送通信、遠隔教育、医療などの民生事業に使われている。中国の周りに日本や韓国などの親米国を置くことは米国の戦略だが、米国の裏庭である南米に親中政権が増えることを米国が認めるはずはない。
クーデター後、生活を改善してくれたモラレス大統領を失いたくない先住民の抗議に対して、反政府派は自推の暫定大統領が独裁体制を敷き、先住民に対して暴力的で残忍な圧迫を行った。トランプ大統領は「自由を要求するボリビア国民と、憲法を守るという誓いを順守するボリビア軍を称賛する」とその蛮行を支持し、反米のモラレス政権崩壊を歓迎した。これが、米国が世界に広めている「民主主義」の姿なのである。
その民主主義の米国では、トランプ大統領自身が民主党によって弾劾訴追されている。そして日本では総理大臣の「桜を見る会」をめぐる問題に隠れるようにひっそりと米国との自由貿易協定が参院本会議で承認され、2020年1月1日に発効する見通しだ。ボリビアのように資源を搾取されることはないが、米国の忠実なしもべである日本は、米国が農業、自動車、金融、通貨などさまざまな分野で自由に搾取できる道筋をつくったのである。