No. 1277 ソレイマニ司令官暗殺

バグダッドで、イラン革命防衛軍のソレイマニ司令官が米軍のドローンからミサイル攻撃を受けて殺害されたことで、米国とイランで戦争が始まるかのような年明けとなった。

暗殺の指令を出したのがトランプ大統領なのか軍産複合体なのか、それともイスラエルなのか、さまざまな臆測がなされている。米軍との戦いで指揮を執りイラン軍人の中でも英雄とされていたソレイマニ司令官が、米国の中東支配の最大の障害であったことは間違いない。これまで殺害の機会はあっても米軍が実行に移さなかったのは、その結果起こるであろう事態を考えてのことだったかもしれない。

今回、ソレイマニ司令官が外交官として米国政府の要請でイラクを訪問したタイミングを狙い、米国は彼を暗殺した。トランプ大統領によれば、「ソレイマニ司令官が米国の外交官や兵士へ悪意のある攻撃を画策していた」、だから「自衛」のために殺害したのだという。

2003年、「イラクが大量破壊兵器を保有している」という理由でブッシュ大統領が始めたイラク戦争と同じシナリオだ。違うところは、その後トランプ大統領がイランと戦争する意思はないと表明したことである。軍事的脅迫は行わずイランとの和平確立、西アジア地域の米軍駐留人員を削減する、と。しかしこれはまるで放火犯人が消火活動をしているようなもので、大統領選挙対策に手柄を誇りたいのであろう。

殺害が起きた米国占領下のイラクでは、議会が米軍含む外国軍を退去させることをイラク政府に要請した。これに対してトランプ大統領は、もし撤退を余儀なくされればかつてない規模の制裁をイラクに科すと警告した。現在米軍はシリアにも違法で居座っているが、イラクやシリアに米軍が駐留する理由は石油である。イラクを去ることは、米国が石油の直接および間接的支配を失うことであり、さらには、イラン、イラク、シリアといった抵抗勢力を押さえつける可能性を永遠に失うことになる。

欧米メディアがどんなにうまく報じても、ソレイマニ司令官の暗殺という違法な戦略的失策を米国が行ったことは隠せない。中国やロシアもイラン側であることを考えれば、米国が戦争をするつもりはないのは本音であろうが、イランは米国に対して、金融の側面から核兵器に等しい打撃を与えることもできる。

殺害後、イランが海上交通の要衝であるホルムズ海峡を封鎖するのではないかという懸念から原油価格が急騰した。それだけでインフレにつながるが、さらに米国の多くのファンドは石油価格にリンクしたデリバティブ取引を行っている。デリバティブ契約の残高はGDP総額の30倍近くにものぼり、海峡閉鎖により原油供給が不足し価格が高騰すれば金融市場の崩壊は過去の恐慌を上回る悲惨なものとなるだろう。もちろんこの道筋を作ったのは石油中毒、戦争中毒の米国自身である。テロリストのタリバンはバーミヤンの仏教遺跡を破壊し、ISはパルミラ遺跡を破壊した。ペルシャ文化の破壊者に加わろうとしている米国もテロ国家以外の何ものでもない。