No. 1279 ダライ・ラマとCIA

1月末、米下院本会議は中国チベット自治区での人権弾圧を批判し、人権や宗教の自由を擁護する法案を賛成多数で可決した。昨年11月の香港人権法、12月のウイグル族の人権擁護に関する法案に続き、米国が中国政府に圧力をかける法案は三つ目となる。

チベット支援法案では、最高指導者ダライ・ラマ14世の後継者選出に中国当局者が介入すれば米国は制裁を検討するとの規定も盛り込み、チベット自治区のラサに米国領事館の設置を中国が認めない限り、米国政府は中国に対して新たな在米中国領事館の設置を許可しないことも規定した。中国政府はこれらを内政干渉だとして反発している。

インドで亡命生活を続けるダライ・ラマといえば、頻繁に来日し、日本の政治家との親交も深いことで知られる。1989年にノーベル平和賞を受賞してからは歴代の米国大統領とも親しく会談し、オバマ前大統領とは4回も会談を行っているが、中国政府はそのたびに、ダライ・ラマは“チベットを独立させることで”中国を分裂させるという政治的野望を世界指導者に説いて回っていると非難してきた。

興味深いことに、トランプ大統領は就任以来まだ一度もダライ・ラマとは会っていない。そのためかどうかはわからないが、ダライ・ラマは昨年6月の英BBC放送のインタビューで、トランプ氏を「道徳の原則が欠如している」と批判し、またトランプ氏の掲げる「米国第一」主義についても「間違っている」と断じたという。

ダライ・ラマの活動を資金援助してきたのはCIAだったということは以前から「陰謀説」のように取り上げられてきたが、最近になって一般紙だけでなく米国の政府機関までもがそれを事実であると認めている。こうなると、今メディアが「陰謀論」だと片付けている出来事が今後どれくらい事実だった、という結末になるのかと疑わざるをえなくなる。

単なる宗教指導者ではなくチベット政府の首長であったダライ・ラマは、1959年、インドに亡命政府を設立してから少なくとも1970年代まで、CIAから毎年18万ドル(約2千万円)を受け取っていた。ノーベル平和賞を受賞した1989年に、非暴力的な手段での中国政府からの解放と世界に印象づけたが、その活動資金はCIAが中国に対するゲリラ作戦の対価としてダライ・ラマに与えたものだったのである。

CIAは米国にとって利益となることをさせる、または不利益となる人や組織を抑圧したり、時には破壊するためにダライ・ラマを雇っていた。さらに中国共産政権の影響力や軍事力に対抗するために、CIAは中国に対するチベット人抵抗組織にも軍事的支援を行った。これらはすべて、ソ連と中国の共産主義政権を弱体化させるために行われたことだった。

観音菩薩の化身の生まれ変わりの精神指導者ダライ・ラマとCIAの関係を信じたくない人は多いかもしれない。しかしその実像は中国を弱体化させるために米国に利用された宗教指導者であったといえる。