欧米の国で次々と外出禁止令が出され、ようやく日本も緊急事態宣言が発令される中、最初に新型コロナウイルスの感染者を出した中国湖北省武漢では4月8日、封鎖措置が解除された。
武漢が鉄道と空港を閉鎖し地下鉄など全ての公共交通機関も運休することで、市外への移動だけでなく市内移動も制限するという厳しい措置をとったのは1月23日のことだった。この時に発表されていた感染者数は444人、死者17人で、人々が移動する春節を前に感染を抑えようというものだったが、封鎖後もピーク時には毎日数千人規模で感染者が増え3千人超の死者を出した。封鎖解除後も全住民に健康状態を証明するQRコードの取得を義務付けるなど徹底した危機管理は続くという。
新型コロナウイルスは人類の脅威となっているが、環境団体CREAの研究チームによれば、中国政府が感染拡大を抑える目的で春節休暇を延長したことで、2月3日~16日の2週間だけで中国の二酸化炭素排出量が前年比で1億トン減り3億トンになったという。1億トンは南米チリが1年間に排出する二酸化炭素の量に等しい。工業都市武漢が経済と市民の自由を犠牲にしたことで感染拡大の抑止と環境の改善がもたらされたのだ。
石炭火力発電や工場だけでなく、飛行機や自動車など人間の活動は膨大なエネルギーを消費する。米航空宇宙局も今年になって中国で汚染レベルが大きく下がっていることを示す人工衛星写真を公開したが、中国経済をまひさせた新型コロナウイルスは環境にとって良かったといえる。
死者の数が武漢を上回った北イタリアも大気汚染の問題を抱える工業都市だ。ロンバルディア州は工場や自動車の排ガスなどでヨーロッパの中でも特に汚染のひどい地域であるが、イタリア政府が国内移動の禁止と工場操業など全経済活動の凍結を命じたことで、ここでも空気の改善がみられるだろう。
武漢が封鎖された時、米国メディアは「人権侵害」と呼び、急増する重篤患者のために仮設病院を建設し感染者の治療に当たっている間も米国は対策をとらなかった。「自分は大丈夫」という思い込みがあったのだろうが、それは気候変動によって山火事が起きても危機感を感じないのと同じである。このパンデミックから学ぶことの一つは、収束後も急激に経済活動を増やして気候危機を加速度的に大きくしてしまうことの無いよう心掛けることかもしれない。
しかしその前の難題はウイルス危機の終結である。横浜港に接岸した大型クルーズ船での対応を巡り、感染エリアのゾーニング管理が行われなかったと国内外から批判を浴びたが、私たち人類は地球という巨大な船の乗客のようなものなのだ。強い感染力と治療法が無いという現状では、ウイルスに近づかないという消極的な対処法をとるしかなく、そのために移動制限や施設使用制限によって封じ込めを行う。2カ月半で封鎖解除に至った中国の知見や情報を生かすことと国民そして世界各国の協調が欠かせないのは言うまでもない。