新型コロナウイルスに関して3月半ばに行った会見の中で、安倍晋三首相は「日本だけでなく米国や欧州、世界保健機関(WHO)を含めて世界の英知を結集することで治療薬やワクチンの開発を一気に加速したい」と述べた。
薬の開発は簡単ではなく、有効性や安全性を確認して市場に出るまでには多くのお金と時間がかかる。強力な感染力を持ち変異していく新型コロナの薬も同様である。WHOのテドロス事務局長も会見で、世界の製薬会社がワクチン開発に取り組んでいるが、少なくとも1年から1年半はかかるだろうと述べている。特許や独占販売をめぐる数百兆円ビジネスの激しい競争が始まっているのだ。
新型コロナ感染者は世界で100万人を超えたが、この数字には注意が必要である。検査キットの信頼性の問題、そして米国においては、疾病予防管理センターのレッドフィールド所長が公聴会で、新型コロナで死亡した患者がインフルエンザに感染していたと見なされていた可能性があることを認めている。死因がインフルエンザなのか新型コロナか、区別できない状況にあるからだ。
インフルエンザにはワクチンがあるが、100%感染予防できるわけではない。人が繰り返し風邪をひくのは病原体であるウイルスが常に変異しているからで、風邪ウイルスの15%はコロナウイルスだということから、おそらくワクチンができてそれを接種したとしても、副作用の問題だけでなく感染の可能性もある。それでも世界を市場にするワクチン開発は製薬会社にとって魅力的なビジネスなのだ。
ワクチンで重症化は防げても新型肺炎を治すことはできない。症状が軽ければ休養し2、3週間で治癒して自然に免疫がつくかもしれないが、重症化した患者のためにまず必要なのは治療薬である。新薬なしに患者の治療に当たった中国では、マラリアの薬である安価なヒドロキシクロロキンが症状を改善したことがすでに確認されている。さらにキューバが1986年に開発した組み換えヒトインターフェロン・アルファ―2Bも新型コロナに効果があったという。
米国が長年キューバに禁輸措置を課しているため世界にはほとんど知られていないが、現在この薬は中国との合弁会社で作られている。また中国とキューバも共同でワクチンを開発中だという。その他にも、中国では軽症の場合は患者の免疫力を上げるために、薬草などを使う中国伝統医学を取り入れたり、ビタミンCの大量投与を行って重症化を防いだりしてきたが、どちらも安価な方法である。
中国が厳格な地域封鎖を行ったことによって流行を抑え込めることを証明したのは事実である。武漢のようなアウトブレークに直面した欧米諸国は、今同じように地域封鎖を行っている。新薬やワクチンを最初に開発するのが中国なのか米国になるのかは分からないが、確実なのは混迷する欧米に先駆け、最初に封鎖を解いた中国の経済が先に回復していくことだ。それは中国が米国経済を追い越す時期が早まるということでもある。