No. 1291 米国こそ人権侵害者

中国は5月末に開かれた全国人民代表大会で「国家安全法」を採択した。これはデモや破壊行為などを禁止することを目的としたもので、そのための治安機関を香港に設置できるとの規定も盛り込まれている。

香港では、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案をきっかけに昨年から抗議デモが起き、火炎瓶を投げ地下鉄や店舗を破壊するデモ隊と警察との激しい衝突が続いていた。中国はイギリスからの返還後50年間は中国共産党支配とは異なる制度で統治するという約束をしたが、国家安全法でそれがほごにされるとして、香港では新型コロナで沈静化していた抗議活動が再び激しくなっていた。香港警察がデモ隊に対して催涙弾を使用し、米国はそれを非難し、「国家安全法」は香港の自由を奪うものだとして制裁をちらつかせた。

新型コロナ感染による死者が12万人に迫る米国で、白人警察官が膝で黒人のジョージ・フロイド氏の首を押さえつけ死亡させるという事件がミネアポリスで起きたのは、その数日後のことだった。米国では新型コロナの影響で多くの失業者が出ており、経済への打撃に対する怒りから各地で都市封鎖抗議デモが行われていた。

フロイド氏もコロナで職を失った一人であり、感染者や死者は貧困に関連した基礎疾患からくる影響や、医療における差別から米国では黒人の割合が著しく高かった。そこへ追い打ちをかけるように起きた警察官による人種差別事件で抗議行動は全米、さらにはイギリスやフランスなどの大都市でもデモが行われ、世界的な現象となったのである。

米国は世界の警察官を自称し、アジア、中東、アフリカなどの国々を攻撃してきたが、同じように国内では、長年にわたり黒人や先住民族が警察の暴力によって殺されてきた。全て平等な権利を持つ人間が、イギリスによる植民地支配という圧政から逃れて独立したのが米国だったが、建国から今日まで、黒人や先住民族の人権は無視され続けてきたのである。

超大国の立場を利用して米国は諸外国に人権や自由民主主義を説いて内政干渉し、それを受け入れない国を攻撃したが、米国そのものがならず者の警察官だった。大量殺人を犯しても罪に問われることがなかったのは、強大な軍事力と世界最多の億万長者、そして洗練されたプロパガンダによるものだったといえよう。

しかしコロナ禍により、欧州やアジアの類似の法と比べて決して過度ではない国家安全法を制定した中国を批判する米国こそ、歴史的かつ組織的に人権侵害者であることが衆目にさらされた。その上5千万人の米国民が失業しても富裕層の資産は増加し、持つ者と持たざる者との分断がさらに深まって米国社会の不安定化に拍車がかかったのである。

米国のやり方は国内でも国外でも不条理だ。これを機に日本も、米軍に特権を与えることで日本国民の人権を侵している日米地位協定の見直しを行うべきである。ならず者国家への従属は止めなければいけない。