No.1292 インフラの老朽化

新型コロナウイルスでは200万人を超す感染者を出し、人種差別に対する抗議デモで混沌とする米国で去る5月、集中豪雨により二つのダムが決壊して大きな洪水被害が発生した。

米国中西部にあるミシガン州で豪雨のために川が増水して二つのダムが決壊し、「500年に1度」と言われる大洪水が起き、1万人以上が避難する大規模災害となったのである。ダムが建設されたのは1924年で、老朽化から2018年には発電許可が取り消され、大雨によって決壊する可能性があることを指摘されていたという。

新型コロナウイルスの発生源として中国は感染拡大を止めるべきだった、新疆ウイグル自治区ではウイグル族の人たちを人権侵害している、などと米国は中国批判を強めている。しかし国内のパンデミックを止められず、北米先住民族の大虐殺や奴隷制度など今でも多くの人権問題で国民の間に分断が起きているのは米国自身であり、そこに追い打ちをかけるようにインフラの老朽化という問題が発生した。

決壊したダムは米国が第1次世界大戦後のバブルを謳歌し、大量生産、大量消費の生活様式が始まった頃に建設されたものである。米国では日本より30年ほど早く1920年~30年代に急速に道路や橋などさまざまなインフラ整備が行われたが、近年その老朽化が問題になっていた。トランプ大統領は公約として1兆ドル(約110兆円)のインフラ投資を公約し、公共事業で雇用の受け皿を確保する考えも表明してきたが、それが実現されることはなかったのだ。

パンデミックのまっただ中でも自然災害は起き、温暖化によって気温が上がり大気中の水蒸気が増えることから豪雨が増えている。新型コロナによるロックダウンが緩和された中においてのダムの決壊で、避難所では感染予防も徹しなければならなかったという。特に米国中西部では近年温暖化の影響で降水量が増加しており、この豪雨はこの夏も猛暑となることの前触れかもしれない。

世界一の経済大国でありながら、米国は貴重な国家インフラに投資をしてこなかったためにそれらを壊れた危険物にしてしまった。ダムだけでなく高速道路や鉄道、空港、学校の老朽化も深刻だという。さらには水道管の破裂や停電など、米国人が日々利用するインフラに対する保守や投資も米国政府は怠ってきた。

新型コロナからの経済的回復を必死に行う中で、インフラプロジェクトへの投資はこれまで以上に重要になる。なぜなら国家のエネルギーシステムや輸送機関を再構築することで、ロックダウンで職を失った人、またはこれから失うかもしれない人に雇用を提供することになるからだ。また公共事業が拡大すれば他の商売の活況も促すだろう。

米国の後を追う日本にとってもインフラの老朽化は大きな問題だ。日本のインフラ整備の契機となったのが1964年の東京オリンピックだったことを考えると日本も同じ危機に直面している。豪雨や地震も待ってはくれない。新型コロナで新たな生活様式が求められてもインフラが重要であることに変わりはないのだ。