米国で黒人男性が白人警官に首を圧迫されて死亡した事件をめぐり、スイスのジュネーブで国連人権理事会が開かれ、犠牲者の弟が米国の人種差別に関して国連が委員会を設置するべきだというビデオメッセージを寄せた。
もっとも米国は2018年に国連人権理事会から脱退し、ポンペオ国務長官はその理由として「中国やロシアのような人権侵害国が理事国になれるような仕組みは受け入れがたい」などと述べている。人権の定義やルールも米国が決める、ということなのであろう。
トランプ大統領は、新型コロナは(日本に攻撃された)真珠湾よりもひどいと言って中国を非難し、米国ではアジア人差別も横行した。11月の大統領選挙で再選されるためには何としてでも外敵が必要なのだ。中国製品に高関税をかけ貿易戦争を仕掛けた当初、トランプ大統領は「貿易戦争はいいことだ」とツイートし、簡単に中国に勝てると考えたようだ。経済的でも文化的衝突でも米国は中国に勝てると思っているようだが、歴史を振り返る必要がある。
18世紀、イギリスは中国(清)からお茶を輸入していたが、イギリスは売るものがなく貿易赤字が累積したためアヘンを売り、中国がそれを排除しようとしたところで起きたのがアヘン戦争であった。この戦争でイギリスは南京条約という不平等条約を締結し、港を開放させ、香港を割譲した。中国がこの歴史を忘れるはずはない。
100年前、第1次大戦後のパリ講和会議において日本は国際連盟の基本的綱領に人種的差別の撤廃を入れる提案をした。当時は欧米で黄禍論とよばれるアジア人差別が広まっていたことが背景にあり、特に米国では日本や中国からの移民を禁止する法律が作られるなど、露骨な人種差別が行われていた。この人種的差別撤廃の提案は米国ウイルソン大統領によって否決されている。
米国の白人による人種差別は、人種平等条項を拒んだように有色人種に対する優越感からくるのだろう。その一方で、貿易戦争や新型コロナの対応で中国を非難する裏には、矛盾するようだが劣等感があるのだと思う。米国が世界一の経済大国となったのは米国が優れていたからではなく、むしろ1914年以降の戦争で米国以外の国が衰退した結果である。一方で中国は、一部の時期を除いて紀元前から現在まで世界で最も大きな経済力を持つ国だった。
米国は中国の発展の邪魔はできてもそれを止めることはできない。中国との戦争は米国の資源の浪費であり、それよりも新型コロナで疲弊した米国民の生活向上に資源を投入するべきである。米国がいくら中国の問題行動を指摘しても、中国はそれを内政干渉だとして改善されることはないし、歴史的な抑圧と人種的偏見の記憶から民族主義的な反発が起こるだろう。米国が中国にウイグル問題で人権を説くことは偽善以外の何物でもない。
米国政府は米国の価値観の方が優れているとして外国の人々を支配しようとしてきた。その根源にあるのは植民地主義と人種差別である。「黒人の命は大切だ」という抗議デモは、奴隷制度廃止後も平等は表面だけで人種差別は米国の文化そのものであることの表れなのだ。