No. 1296 コロナ禍で暴かれた経済学

新型コロナウイルス感染症の蔓延に加え、国内で激しい抗議デモが続いているにもかかわらず影響を受けていないのが米国の超富裕層である。

資本主義の象徴的存在といえる株式市場では、失業が増え実体経済が停滞しても株価は上昇している。米国株式の指標となるS&P500の時価総額の約20%を占めるアマゾンやマイクロソフト、アップル、グーグルといった大手ハイテク企業は絶好調で、米国の富裕層の資産は今年3月からの約3カ月で5650億ドル(約62兆円)増え、資産総額は19%増加し3兆5千億ドル(約380兆円)になったとCNNは報じている。

政府が「ステイホーム」を呼び掛け日本でもインターネット通販が伸びた。宅配便の需要増によりヤマトホールディングスの4~6月期の連結営業損益は80億円前後の黒字、売上高も前年同期比5%増だったというが、米アマゾンCEOのベゾス氏においては、3月から6月上旬時点までに362億ドル(約3兆9千億円)も資産を増やしたという。

一方で大部分の米国民は株式投資など全く関係がなく、それどころかコロナ不況により多くの人が仕事を失っている。米シンクタンク「ブルッキングス研究所」によれば、米国では約1400万人の子供たちが家庭の金銭的な理由から十分な食事をとれていないという。コロナで休校となり学校給食が中断されたこともその理由の一つだが、ここまでの格差をもたらした原因は米国の徹底した自由市場資本主義によるものだ。

社会主義が経済運営に失敗して崩壊し、米国はじめ多くの国が資本主義こそが優れた経済体系だとして採用した。その正統派経済学の基盤となっているのは、投資と生産に関して資本家の決定は本質的に無駄がなくて優れており、最小のコストで最大の利益を出し、恩恵は多少の格差や時間の前後はあっても効率的に社会に配分されるというものだった。

しかしコロナ禍でこの正統派経済学の欺瞞性が暴かれた。資本家にとってはマスクや医療器具、余分な病床を確保しておくことは無駄なことだったし、そもそも在庫を多く抱えることはコスト増でしかない。資本家はもうかるものに投資をする。製造拠点を賃金の安い国に移転してきたのも、より高い利益が得られるからで、それによって発生する社会や人的コストは資本家の問題ではない。資本主義は社会の少数派でしかない資本家に奉仕するものであり大多数の国民に恩恵はなく、資本家に委ねる資本主義が最も効率的な経済制度だというのは、幻想にすぎなかったのである。

資本主義のもとで病院、健康保険制度、マスクや医療機器など、国民の命を救うための準備をしてこなかった米国は最悪の死者数を出した。日本が米国ほどひどくならなかったのは、日本の伝統的価値観が資本主義の幻想と完全に置き換わっていないからかもしれない。しかし強大な富と力を持つ資本家が社会的役割を果たさなければ、米国社会と同じ道をたどるのは時間の問題だろう。