8月28日、安倍晋三氏が健康問題を理由に総理大臣の辞任を発表した。病気と治療を抱えながら「大切な政治判断を誤ることがあってはならない」と決意したのだという。その数日後、安倍氏が自身の在任中に敵基地攻撃能力保有の方向性を示す意向を固め、与党幹部に伝えていたことが報じられた。
敵基地攻撃能力、すなわち攻撃される前に相手の基地に先制攻撃するということは、攻撃する兵器は持たず攻撃を受けて初めてその防衛力を行使すると定める憲法の範囲内かどうか大いに議論を必要とするところである。第1次安倍内閣が発足した2006年から、祖父である岸信介が総理大臣として成し遂げられなかった憲法改正を孫の自分がかなえるとして、安倍氏は憲法改正にこだわり続けてきた。
安倍氏の病状が悪化したとしている6月には、政府の新型コロナ対応が「Go Toトラベルキャンペーン」などで迷走しているにもかかわらず国会閉会後も臨時国会は開かれず、一方で記者会見において安倍氏は憲法改正について言及した。
おそらくその時点で配備計画停止を発表した地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」に代わる抑止力として、新たなミサイル防衛、すなわち敵基地攻撃能力を保有することをすでに決めていたのかもしれない。
そしてそれは宗主国である米国からの命令でもあった。ロシアのニュースサイト、スプートニクは2019年10月末に、米国はロシアに対し、2020年に中距離弾道ミサイルを日本に配備する計画があると伝えた、と報じている。この米国の野望はまだ実現してはいないが、米国の計画表にはしっかりと刻まれ、昨年から日本政府にその命令が伝えられていたことは間違いないだろう。
8月にはNikkei Asian Reviewも、マーシャル・ビリングスリー米大統領特使(軍縮担当)が、米国が将来的に日本を含むアジア太平洋地域に中距離ミサイルを配備する意向であることを明らかにしたと報道している。
自民党政権のいう敵基地攻撃能力とは、米国防総省が昨年6月に発表した報告書「インド太平洋戦略」の一環で、米国のアジア太平洋における軍事基地として米国の中距離弾道ミサイルを配備することであり、そうなれば中国は黙っていないだろう。中国政府は、米国の同盟国としてミサイルを配備した国には対応策をとると声明を発表している。
安倍政権は米国の同盟国としてステルス戦闘機F35の大量調達を含め、巨額の米国製兵器を購入してきた。その一方で、新型コロナで実現はなされなかったが、習近平国家主席を国賓として来日要請するなど米国が敵としている中国との関係改善にも努めてきた。世界で米軍の受け入れを歓迎する国が減っている中で、日本にはまだ無法状態で米軍が居続けている。米国の人質である限り、これからも総理大臣の交代や敵基地攻撃能力の導入が行われていくのである。