米国のシンクタンク、ピュー・リサーチ・センターの調査によると、米国民の中国に対する好感度が過去最悪になったという。
この調査は今年6月から7月に千人余りの米国人を対象に行われたもので、73%が中国を「好ましくない」と回答し、調査を開始した2005年の35%から対中感情は大幅に悪化した。中国の新型ロナウイルス感染症への対応やウイグル族など少数民族の人権問題などがその理由だという。
大統領選を控えた米国では「中国たたき」が激化している。以前から米国は、中国が新疆ウイグル自治区でイスラム教徒ウイグル人を再教育キャンプに強制収容していると非難してきた。これに対して中国政府は多数の一般市民が犠牲となるテロ攻撃への取り組みを歪曲しているとし、人権問題に関心があるなら自国の銃や移民問題に取り組むべきだと反発している。
また米国は香港に施行した国家安全維持法について、残忍で徹底的な弾圧だと非難し、さらには中国政府のスパイが米国で起きているデモに資金提供をしている、米国のあらゆる技術や情報を盗んでいる、などとして7月にはヒューストンの中国総領事館の閉鎖を命じている。80年代後半に起きた日米経済摩擦では、日本は米国の激しい「日本たたき」に屈してすぐに米国の命令に従ったが、中国は四川省成都市の米総領事館の閉鎖を求めるなど、対抗する姿勢を示している。
4分の3の米国民に嫌悪感を持たせるほど、米メディアが中国を悪者として描くのは、過去の米国のやり方をみると中国との戦争を正当化させるためではないかと勘ぐってしまう。第1次大戦の時、米国民の多くは米国が欧州の戦争に干渉しないという立場をとっていた。
そのためウィルソン大統領は「クリール広報委員会」を作り、ドイツ兵がいかに残酷かというプロパガンダを行って米国民の間に戦争への熱烈な支持を形成したことは有名な話である。その委員会の中心人物だったエドワード・バーネイズとウォルター・リップマンは、著書において「プロパガンダが大衆の意識をコントロールできる」と記した。
米国は同じ手法を使い、イラクは米国に対する差し迫った脅威だ、大量破壊兵器を持っている、というプロパガンダを繰り返してイラク戦争を開戦したが、それが今度は中国に向けて行われている。核保有国である中国との戦争を望む米国民は多くないはずだが、戦争によって利益を得る一部の支配者層はプロパガンダによって特定の国や国民への憎悪と怒りを醸成できることを知っている。日本のマスメディアの情報統制、世論操作の原点もここにあると言える。
アヘン禍によって150年間にもわたり国力を衰亡させられた中国は、米国にとって安価な労働力を提供する貧しい国だった。その国が毛沢東の時代を経て経済を自由化し、貿易と直接投資を通じ世界経済に影響を及ぼす大国に成長し、米国を凌駕するほどになった事実は米国にとって許しがたいことなのだろう。しかし我々は米国のプロパガンダを見抜かなければいけない。第3次世界大戦を避けるためにも。