新型コロナウイルス感染者数が世界最多となった米国で、トイレットペーパー以外にも人々がこぞって購入したものがある。
日本では信じられないことだが、米国人が長蛇の列をなして買い求めたのは銃や弾薬だったという。ロックダウンによって日用品や食材が購入できなくなり、もし強盗に入られたら戦うために必要だというのだ。自分や家族の命を自分で守るのは西部開拓時代からの教えで米国の憲法も国民が武器を持つことを権利として認めている。特に共和党は銃の所持に賛成で、民主党はオバマ政権時代に銃規制を強化しようと試みたが、憲法を変えることはできなかった。
そんな米国が世界で最も銃犯罪の多い国であるということは言うまでもない。2017年にラスベガスで起きた銃乱射による無差別殺人事件では59人が死亡し500人以上が負傷した。この他にもショッピングモール、大学や高校、教会と、あらゆる場所で銃乱射事件が起きている。米国では個人が銃器を携帯することは最も守られるべき権利であり、米国には世界のどの国よりも数多くの銃器があり、American Military Newsによれば米国民間人の持つ銃の数は約4億丁と、米国の人口より多いのである。
そして銃がどこにでもあることにより、例えばスーパーで2歳児が母親のカバンから銃を取り出し母親を撃ち殺してしまう、というような悲惨な事件も頻発している。米国では銃の所有だけでなく弾薬の入った銃を持ち歩くことも違法ではなく、ショッピングモールや学校、アムトラック鉄道にも持ち込みが許可されているのだ。銃から子供を守るために米国では9月の新学期に向けて「防弾バックパック」が販売されたとハフポストは報じている。
その結果、テロとの戦いだとしてイラクやアフガニスタンで攻撃を続ける米国の国内では、テロリストに殺されるよりも銃乱射や子供の誤射で死亡する確率の方がはるかに高くなる。日本のように銃規制の厳しい国では一般人の銃による殺人はほとんど起きていない。銃の目的は殺傷であり、自己防衛のために銃が必要ならば、その時点で国家として機能不全にあると言えるだろう。
米国で銃規制を阻むための後押しをしているのがNRA(全米ライフル協会)である。銃を持つ権利を擁護する利益団体で設立は1871年と古い歴史を持つ。NRAは、銃を隠して持つのではなく、腰にさすなど所持しているのを周囲に見える形でおおやけに携帯することを認める「オープンキャリー」運動に銃の製造メーカーと共に資金を提供し、イベントを開催して「オープンキャリー」を推奨している。
自己防衛は基本的人権である。しかしその最も効率的な防衛手段が銃であるというNRAの、そして銃規制反対派の主張に反して、実際には自己防衛以外で使用されているほうがはるかに多い。それでも米国では銃を持つことは自由の象徴であり、価値観なのである。