11月15日、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)首脳会議とRCEP協定の署名式がテレビ会議で開催された。8年をかけた東アジアの自由貿易圏構想がようやく妥結したのである。
15カ国が調印したRCEPは世界経済の歴史における大きな節目になる。中国、日本、韓国を含む世界最大の自由貿易協定であり、新しい経済圏は世界の人口とGDPの約3割を占める。東アジアで関税を撤廃し、共通のルールでサプライチェーンを強化し、新しいEコマースのルールを成文化していく。唯一参加を見送った国はインドだが、今後インドが要請すれば参加交渉は可能になっている。モディ政権は、米国主導で中国に対抗するものとして作られた「自由で開かれたインド太平洋を支持する国の枠組み(クアッド)」を選んだのかもしれないが日本もクアッドのメンバーであり、今は、インドは中国の敵として動いているが将来的にRCEPへの参加は十分あり得る。
これまで米国はさまざまなアプローチを中国にとってきた。クリントン政権は中国のWTOへの加盟を支援し、米国民は安価な中国製品を入手できるようになり、結果中国との貿易赤字が増大した。テロとの戦いに終始したブッシュ政権の後、オバマ政権ではアジアを重視する「アジア・ピボット理論」を打ち出し、その目玉がTPPだった。経済発展が期待できるのは成長率の高いアジア太平洋地域であり、そこへの輸出を増やせば米国経済も発展する。アジア市場のアクセスを改善して輸出を増やそうというもので、中国を締め出すこともまたTPPの目的だった。
世界経済の4割を占め、米国と11カ国のための新しい貿易の枠組みと基準を作るTPPは世界最大規模の貿易協定となるはずだったが、TPP離脱を公約に掲げたトランプ氏が大統領になり、2017年、米国はTPPを離脱したのである。
RCEPの交渉が米国中心のTPPほど議論の的にならなかったのは、TPPと違いRCEPは参加国に対する自由化への要求が強くないこと、労働者の権利や環境基準、知的所有権なども保護されていたからである。ちなみに米国のメディアはRCEP調印についてほとんど取り上げていない。アジア地区における米国の影響力が消えることであり、この巨大な経済圏で競争する米国企業にとって厳しいことになるという事実を報じたくないのかもしれない。
中国経済は崩壊すると度々言われてきたが、欧米諸国の経済が縮小する中で、中国の成長は続いている。RCEPはさらに中国とアジアの台頭を後押しし、一帯一路と共に世界秩序を変えていくことになる。そしてそれを阻止するために米中の技術、貿易、資本市場、そして兵力における競争は激しさを増していくと思われる。しかし米国はどの国よりも多く新型コロナ感染者を出し、失業を増やし、大統領選挙で国民間の分裂はさらに深まっている。経済的安定と国民のまとまりに欠けた国に、長期的な繁栄を見込むのは難しいだろう。