No. 1310 米国に勝ち目はない

EUと中国の間で難航していた投資協定が昨年末、ようやく基本合意に達した。発効は2022年になるというこの協定により、EUは電気通信や製造などさまざまな中国産業への投資拡大が可能になる。

2014年からEUと中国は交渉を続けてきたが、中国を敵視する米国政府の干渉もあり合意には至らなかった。しかしイギリスが離脱したEU加盟27カ国は、米国で新大統領が就任する1月20日を前に独自に対中外交に進む方針を明らかにしたのである。

過去20年間でEUと中国の貿易は飛躍的に増え、昨年1~9月期の対中貿易額は4255億ユーロ(約53兆7千億円)と、中国はEU最大の貿易相手国になった。昨年は新型コロナにより多くの欧米企業で需要不振やサプライチェーンの停滞が起き、対米輸出も減少した。しかし中国市場がいち早く回復していたことで、多くの国が景気減退を予測される中、中国市場の重要性が一段と鮮明になっていることは言うまでもない。

フォルクスワーゲンなど自動車産業は世界最大の自動車市場である中国に依存し、ドイツはEUの対中輸出の半分近くを占めている。メルケル首相は今年の任期満了で引退を発表していることもあってか、米国の圧力に屈しなかったようだ。

中国を敵視する米国も実情は同じである。台湾に対して戦闘機や対艦ミサイルなどの武器を提供する米国だが、もしそれが中国と戦争を始めるためだとすれば、米国は自信過剰か、中国を甘く見ている。ベトナムやアフガニスタンでの戦争のように長期化するほど米国に勝ち目はないし、それ以前に米中戦争が始まれば中国にある全ての米国企業の工場が封鎖される。アップルは製品と14億人の中国市場の両方を失い、フォードやGMも一夜にして工場も自動車も市場も失うことになる。数週間以内にウォルマートの棚から商品がなくなる。プラスチック製のバケツやおもちゃだけでなく、薬、衣料品、家電、部品からハイテク機器、レアアースなど、米国は中国から年間4185億ドル(約46兆円)を輸入しているのだ。また米国は中国に石油、航空機エンジン、大豆など1227億ドルを輸出しているが、それもなくなる。

新型コロナにより国々が門戸を閉じることで世界経済はさらに悪化するだろう。米国が中国を敵視するのは、自国の問題を外国のせいにするのが最も簡単な方法だからだ。今、米ドルは基軸通貨としての地位も揺らいでおり、この状況が続けば人々は米ドルよりも人民元を選ぶようになるだろう。中国との戦争などあり得ないと私は思う。

または米国が内部から瓦解していく可能性もある。2020年の大統領選挙は米国の各州が一つの国のような存在であることをあらわにした。イギリスがEUを離脱した「Brexit」の次は、テキサス州が合衆国政府に「Texit」を突き付けて分離独立するかもしれない。ユーラシア情勢を見ていると米国の瓦解もあり得ないことではない。いずれにしろ2021年もまた激変の年になることだけは間違いないだろう。